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  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:京都産業大学対立命館大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:京都産業大学対立命館大学

    「間合い」と「プラン」の攻防:全勝京産大が粘る立命館を振り切った勝負の分岐点

    この一戦は、全勝で首位を走る京都産業大学と、一勝目が待たれる立命館大学の対戦であり、単なる星の差以上のドラマを予感させるものでした。特に春季リーグ決勝で立命館が京産大を破っている事実は、立命館が「打倒京産」の策を持っていることを示唆しており、試合前から期待感を高めていました。

    試合展開:主導権とスコアの妙

    試合序盤、主導権を握ったのは立命館大学でした。立ち上がりの1stスクラムでペナルティーを獲得し、勢いに乗ると、SHからのボックスキックと、そこに対する「キックチェイス」によってターンオーバーを連発しました。ポゼッションとテリトリーで優位に立ち、試合を京産大サイドで進めることに成功します。立命館が意図した「キッキングゲーム」と「チェイスによるプレッシャー」が完全に機能した時間帯でした。

    しかし、スコア面で優位に立ったのは京都産業大学でした。少ないチャンス、特にターンオーバーからのカウンターアタックにおいて、走力とパワーを兼ね備える大学屈指のNO8シオネ・ポルテレ選手がトライを奪うなど、京産大は「チャンスを的確にスコアに繋げる」決定力の高さを見せつけます。

    その後の試合は、立命館がポゼッションとテリトリーで攻め込み、京産大が粘り強いディフェンスとカウンター、そしてセットプレーからスコアを重ねるという、一進一退の攻防が続きました。立命館はリードを許しても突き放されない粘りを見せ、緊迫した展開が終盤まで続きます。

    試合の行方を決定づけたのは、後半70分を超えたあたりの時間帯でした。京産大が「伝家の宝刀」であるモールでトライを奪い、立命館の抵抗を打ち破ります。このトライで流れを完全に引き寄せた京産大は、その後も連続攻撃とラインブレイクをスコアに繋げ、最終スコア47-19で勝利。スコア以上に立命館の善戦が光るものの、最終的に京産大が勝ち点5を獲得する盤石の試合運びを見せました。


    京都産業大学:劣勢でも勝ち切る「風格」と「間合い」

    ポゼッション、テリトリーで劣勢に立たされながらも勝ち切った京産大の強さは、その「間合い」と「決定力」に集約されます。

    アタック:「自分たちの間合い」の徹底

    京産大のアタックの最大の特長は、テンポの緩急を巧みに操る「自分たちの間合い」を大事にする点です。 スクラムハーフ髙木城治選手は、ブレイクが起こった際には圧倒的なテンポでボールを捌く能力を持ちながらも、中盤や敵陣22m手前では、あえてFWにボールを預け、個々のフィジカルと近場の圧力を活かす「間合い」でボールを運びます。 

    一方で、一度ブレイクが起きると、ギアを一段、二段と上げてボールのテンポを一気に加速させます。このブレイクの起点を担ったのがCTBの奈須 貴大選手です。絶妙な深さからギャップを見つけ、しなやかなランと力強さでディフェンスラインを切り裂くランニングは今シーズンも健在で、京産大アタックの脅威であり続けました。 試合中盤までは繋ぎの部分や連携にわずかなミスも見られましたが、チーム連携が深まることで、さらに加速する可能性を秘めています。

    FWの間合い:「スクラム」と「モール」

    もう一つの「間合い」は、FWのセットプレーにあります。スクラムは5度のペナルティー獲得でアタックの起点となり、その圧力は健在です。 モールは立命館のサックディフェンスに苦戦し、70分まで封じ込められていましたが、試合を決定づけたのはやはりゴール前でのモールでした。ゴール前まで持っていけば「取り切れる」という絶対的な信頼を持つモールと、近場でのFWの圧力は、京産大の強さの根幹であり、今後も注目です。

    ディフェンス:粘り強さと22m内での精度

    ディフェンスは、ラインスピードに重きを置くより、「ブレイクダウン」にこだわったプレーが多く見られました。特に折り返しの10シェイプや9シェイプでは、6番平野龍選手、7番で主将の伊藤森心選手を中心に飛び出し、素早い接点への圧力をかけました。 

    ブレイクダウンでの圧力はターンオーバーを引き起こす場面もありましたが、テンポよく出された際には次のフェーズで遅れを取り、エッジでゲインを許すケースも散見されました。エッジの人数不足はバックスの個人のディフェンスレンジでカバーしている印象を受けますが、課題として残ります。 

    しかし、特筆すべきは22m内でのフィールドディフェンスの精度です。最大16フェーズにも及ぶ粘り強さで耐え抜き、スティールからペナルティーを獲得したプレーは、この試合の京産大の「我慢強さ」を象徴するものでした。


    立命館大学:「プランアタック」と「キッキングゲーム」の巧みさ

    全敗ながら、立命館大学は試合全体を通して理想的なアタックとキッキングテリトリーを獲得し、京都産業大学を苦しめました。

    アタック:「プランアタックとキッキングゲーム」

    立命館のラグビーは、「プランアタック」と「キッキングゲーム」に集約されます。

    キッキングゲームは、SH香山創祐選手やSO初田 航汰選手からのハイパントキックと、それに続く3人のキックチェイス、ラックへの素早いプレッシャーからターンオーバーを狙うという、高精度な連動を見せ、京産大に大きなプレッシャーを与えました。今シーズンの関西リーグで最もキックを多用し、テリトリー獲得と空中戦を作り出すという両面で、その意識と精度、チェイスのレベルの高さが際立ちました。

    プランアタックでは、事前に用意されたシークエンス(連続攻撃の型)をここぞの場面で繰り出し、スコアに繋げました。特に特徴的だったのは、1322のポッド配置において、通常FWの後ろ(バックドア)に配置されるセンターを、外側に配置し、外側での優位性を生み出す工夫です。このシークエンスはブレイクを生み出し、一気にトライまで取り切る力を見せましたが、ミドルゾーンが手薄になり、ターンオーバーを誘発しやすいという表裏一体の課題も露呈しました。

    FW:ラインアウトの精密さとセットプレーの工夫

    ラインアウトの獲得精度は素晴らしく、17回中15回という高い成功率を記録。5メン、6メン、オールメンを巧みに使い分け、フロント、ミドル、バックへのボール供給に工夫を凝らす獲得の精度は、関西随一の強みと言えます。 また、ラインアウトからモールを意識させた後のピールオフで、イエローカードで人数が少ないディフェンスのスペースを突き、トライを獲得するなど、工夫されたセットプレーアタックは京産大を揺さぶりました。

    課題:ゴール前での仕留めの精度

    立命館の最大の課題は、スタッツにも現れている「ゴール前での仕留めの部分」です。今回のスコアは「22m外から」の攻撃スタートが多く繋がっており、ゴール前まで迫ると、ディフェンスラインが強固になり、プレッシャーを受けてターンオーバーを許すケースが多く見られました。22m内での決定率が勝敗を分けた大きな要因と言えます。

    ディフェンス:ダブルタックルとラックへのラッシュ

    立命館のディフェンスは、ダブルタックルの強度が高く、相手をドミネイトする場面が目立ちました。テイクダウン後の素早い起き上がりとラックへのラッシュがチームとして徹底されており、素晴らしいターンオーバーを引き出しました。前半は規律と共に前へ出るプレッシャーディフェンスが機能していましたが、足が止まる後半終盤にギャップや横の連携が乱れ、崩しきられる場面があり、ここは今後の課題となるでしょう。モールディフェンスについては、サックとファイトを使い分け、京産大の強みを70分まで封じ込めた対策は一定の評価ができます。


    データから見る勝負の分岐点

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    互いにアタックの機会を多く得ていたことがスタッツから裏付けられます。
    最も勝負を分けたのは、互いに10回、11回とあった「敵陣22mエリア内の決定率」でした。立命館は敵陣深くでポゼッションを持ちながら、自分たちの少ないミスを京産大に取り切られるなど、ゴール前での精度の差が敗因となりました。 アタックスタイルにおいては、京産大がFW中心の9シェイプに重きを置くのに対し、立命館が3割近くをバックラインアタックに割いていることは、「外側にチャンスメイクを求める」立命館のプランアタックを象徴しています。

    まとめ

    最終スコアこそ開きましたが、この試合は後半の最後まで勝敗の行方が分からない、非常に質の高い一戦でした。立命館大学は、巧妙なゲームマネジメントと、工夫を凝らしたシークエンスアタック、そして高精度のキッキングゲームという「打倒京産」のプランを披露し、全勝チームを大いに苦しめました。

    京都産業大学は、ポゼッションとテリトリーの劣勢を、大学屈指の決定力、セットプレーの圧力、そして22m内での鉄壁のディフェンスという「風格」で乗り越えました。自慢のモールに加えて、今後のアタック連携がさらに深まれば、京産大はさらに手が付けられないチームとなるでしょう。
    負けられない一戦で見せた立命館のラグビー、そしてそれを乗り越えた京産大の盤石の強さ。関西大学ラグビーリーグ戦の面白さを凝縮した見応えのある試合でした。

    では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:近畿大学対関西大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:近畿大学対関西大学

    まさに死闘!ポゼッションvsエリア、勝負を分けたセットプレーの執念

    関西大学ラグビーリーグ開幕から2試合を終え、近畿大学が1勝1敗、対する関西大学が痛い2連敗という状況で迎えたこの一戦は、両チームにとって秋の戦線を左右する「落とせないゲーム」となりました。上位に食い込むためには、もはやどちらも負けられない極限のプレッシャーの中、試合は最後まで予測不能な、まさに劇的な結末を迎えました。

    近年の対戦成績の因縁も相まって、試合は近畿大学の「ポゼッションアタック」と、関西大学の「テリトリーゲーム」という、極めて対照的なスタイルが激しくぶつかり合いました。ディフェンスにおいても、お互いの決定機を許さぬ堅固な攻防が続き、特に関西大学7番 三木翼選手に見られたような、試合の流れを変える「執念のスティール」も飛び出す白熱の展開となりました。

    ◆試合展開:サヨナラPGが導いた劇的勝利

    試合は、SO﨑田士人選手のロングキックを軸にテリトリーを支配しようとする関西大学に対し、近畿大学が自陣からでもボールを継続するポゼッションアタックを見せる構図で進行しました。

    まずリードを奪ったのは関西大学。敵陣でのターンオーバーという、彼らの得意な形からチャンスを作り、強固なモールを起点に先制します。対する近畿大学も、中盤でのラインブレイクを起点にペナルティーを誘い、ゴール前からの攻撃をスコアに繋げ、一進一退の攻防に。

    試合のハイライトは後半。近畿大学は、工夫されたシークエンスアタックから2本連続でトライを奪い、リードを奪うことに成功します。しかし、敗戦の危機に立たされた関西大学は、ゴール前のFWが10フェーズを超える猛烈な連続攻撃を仕掛け、ディフェンスをこじ開けて土壇場で同点に追いつく執念を見せました。

    そして、試合の結末を分けたのはまさしくラストワンプレー。プレッシャーがピークに達した瞬間、スクラムで執念のペナルティーを奪い、サヨナラペナルティーゴールを決めた関西大学が劇的な勝利を手繰り寄せました。


    ◆近畿大学:SH渡邊選手が牽引する高精度アタック

    近畿大学は、現代ラグビーでは比較的珍しくなった試合序盤のキックオフレシーブの局面からポゼッションを重ねるスタイルを徹底し、ボールを持ちながら防御をこじ開ける道筋を模索していました。

    巧妙に設計されたアタックシークエンス

    攻撃の中心にいたのは、SH渡邊晴斗選手です。彼を起点とした9シェイプがアタックの基本構造となり、スイベルパスを用いてバックドアへボールを動かし、外側へ展開する動きが近大のアタックの代名詞となりました。加えて、大外のスペースやキックカウンターの局面では、WTB太田啓嵩選手のダイナミックなランニングからブレイクを起こし、決定的なスコアチャンスへ繋げていました。

    特筆すべきは、FW陣の高いハンドリングスキルに裏打ちされたティップオンパスの多用です。FW同士の短いパスは、シェイプに帰属する全員がボールキャリアーとなり、相手ディフェンスの焦点を絞らせませんでした。バックスラインは広く浅いラインを形成し、FWとバックスの役割を明確に分離しながら、内側で良い形でボールが供給された際、走力のあるバックスがブレイクを起こし、決定的なスコアチャンスを生み出していました。

    その戦術的深さを見せたのが、後半の連続スコアです。

    1. 一つ目のトライは、SH渡邊選手がラックから意図的に離れた位置に立ち、ピックを仕掛けるFWをダミーとし、深めに位置するバックスラインへボールを供給していました。ラックサイドに集中していた関大ディフェンスの裏をかく効果覿面なプレーでした。
    2. 二つ目のトライは、ラックサイドのFWへのダミーパスを入れ、外側から13番 井上 晴嵐選手が縦に鋭く走り込み、その裏を9シェイプの機動力のあるFWが回り込みギャップを突く形。二列目から飛び出してきたバックスの縦方向のランニングに対し、FWが差し込むこの連動は、関西大学にとって非常に嫌なプレーとなりました。

    これらは、事前に入念に用意されたプレーであり、ハーフ団の采配が見事に的中し、相手の陣形に合わせて練り込まれたプレーを繰り出す、アタックの質の高さを示しています。

    課題となったアタックレンジとトランジション

    しかし、ポゼッションを追求するがゆえの課題も見られました。バックスラインがシングルに並ぶ構造は、相手のスライドディフェンスに上手く対応されてしまうと、苦しい体勢でのラックメイクを強いられる原因となりました。また、ミドルゾーンにおけるアタックレンジの狭さも、相手ディフェンスに見切られやすい要因となり、ティップオンパスがブレイクに繋がらないシーンを増やしていました。

    何よりも、ポゼッションラグビーの宿命として、ターンオーバーされた後の1次ディフェンスの対応が大きなテーマとして残りました。ボールを拾われたり、ペナルティーを犯したりした後に一気にピンチを背負い、スコアに直結させられた場面は、この試合を苦しくした大きな要因でした。

    ディフェンス面では、タックル強度の高さは今年も健在で、差し込まれる場面よりもドミネイトする場面の方が多く見られましたが、ゴールを背負った際の近場の連続ピックやモールに対する課題は、今後の修正点となるでしょう。


    ◆関西大学:SO﨑田選手と強靭なFWによる勝利

    関西大学は、終始アタックとディフェンスの戦術的なバランスを保ちながら、スコアチャンスを確実にものにしていく効率的かつフィジカルなラグビーを展開しました。

    圧倒的なエリア支配力とキックチェイス

    関西大学の戦い方は、SH 宮内 幹大選手を起点としながら、中盤からは徹底したキック中心のテリトリーメインの戦略にシフトしました。その戦略を支えたのが、SO 﨑田 士人選手推定60mにも達する超ロングキックです。この一発のキックが、試合の局面を一瞬で敵陣深くに押し込み、エリア獲得に大きく貢献しました。

    このエリア獲得の意識は、キックチェイスのディフェンス精度として具現化されました。高精度のチェイスから相手にプレッシャーをかけ、ターンオーバーを誘発するシーンは、今季の関西大学の最も強力な武器であると断言できます。スコアの多く(合計4本のトライ)が敵陣でのターンオーバーを起点としている事実は、この戦術の有効性を証明しています。

    勝利を決定づけたFWの執念と三木選手の献身

    関西大学のもう一つの得点源は、FW戦における圧倒的な強さです。中盤でペナルティーを獲得し、敵陣でのラインアウトモールを起点に押し込む流れは、安定した攻撃パターンとなっていました。

    そして、この試合の最も重要な決め手となったのがスクラムです。前半には反則を取られるシーンがありましたが、後半の重要な局面、そして同点に追いついた後の最後の土壇場でペナルティーを獲得したことが、FW陣のフィジカルと精神的な勝負強さが勝利を手繰り寄せたことの要因と言えます。80分間フィールドプレーを続けた後、最後に力を振り絞りペナルティーを取り切った関西大学のFW陣は、まさしく「殊勲の働き」でした。

    ディフェンス面では、規律を保ちながら近畿大学のポゼッションに対し粘り強く対応しています。特に7番三木翼選手は、ディフェンスラインの中でも鋭いタックルを連発し、さらにスティール(ターンオーバー)を二度成功させるなど、近畿大学の連続攻撃の芽を摘む、極めて献身的な役割を担っていました。


    ◆データが語る勝敗の分岐点

    この試合の勝敗を分けたポイントは、詳細なデータからも明らかになりました。

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    両チームのアタックシェイプは9シェイプが中心でしたが、決定的な差が生まれたのはセットプレーとエリアの攻防でした。
    ラインアウトの獲得率は、近畿大学60%に対し、関西大学は76%と差がつきました。関西大学は13回のラインアウト機会から安定した獲得率を見せ、そこから攻撃を生み出しました。一方、近畿大学にとって、マイボールのラインアウトやスクラムで逆にペナルティーを奪われるシーンは、攻撃を寸断され、苦しめられた最大の要因と言えるでしょう。

    22mエントリー回数関西大学が近畿大学を上回りました。これは、関西大学が攻撃回数自体は同等か少ない中で記録した数字であり、ロングキックとキックチェイスによる敵陣でのターンオーバー戦略が、効率的なエリア侵入に繋がったことを示しています。近畿大学は侵入回数あたりにおいては的確にスコアまで繋げられていたものの、そもそも敵陣に入りきれない時間が長かったことが、最終的な敗因の一つとなりました。


    まとめと今後の展望

    スコアが拮抗する展開で、両チームともにディフェンスとアタックの持ち味が出尽くした、非常に質の高いゲームでした。
    ポゼッションを徹底し、ハーフ団の采配と工夫されたシークエンスでリードを奪った近畿大学。そのアタックの可能性は間違いなく本物ですが、セットプレーとトランジションディフェンスの修正が、今後の上位進出の鍵となります。

    対照的に、戦うエリアを意識し、セットプレーとFWのフィジカルで最後の最後まで粘り強く戦い抜いた関西大学。逆転されてもジリジリと迫り、最後に値千金のスクラムでの踏ん張りを見せた勝負強さは、2敗からの巻き返しに向け、大きな自信となるでしょう。

    両チーム共にこの死闘を糧に、どのように残りのリーグ戦を戦い抜くのか、今後の展開から目が離せません。では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:同志社大学対関西学院大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:同志社大学対関西学院大学

    熱戦を制した関学の「計画性」と、同志社の「修正力」が光る伝統の一戦

    関西ラグビーリーグの注目カード、同志社大学と関西学院大学の対決は、シーズン序盤にして早くも白熱の攻防となりました。共に初戦を白星で飾り、勢いに乗る両雄のぶつかりは、昨シーズンの順位を巡る因縁も相まって、大きな山場となることは間違いありませんでした。

    同志社大学は、本来ゲームメーカーであるSO(スタンドオフ)やFB(フルバック)を務めることが多いキャプテンの大島泰真選手を、あえて14番ウイングに起用。これは、試合中に彼を本来のSOの位置に移動させ、そこを起点とした流動的な移動攻撃を仕掛けるという、相手の予測を裏切る明確な戦術的工夫でした。

    対する関西学院大学も、高校代表経験を持つ武藤航生選手、中俊一朗選手といった強力なアタッカーをバックスに要し、持ち味であるバックス陣の展開力に磨きをかけてきました。

    ◆試合展開:関学の「理想」と同志社の「苦闘」

    試合の主導権を握ったのは関西学院大学でした。彼らは持ち味であるバックス陣の展開力と、FWのモールを効果的に組み合わせ、敵陣に入れば確実にスコアを取り、理想的な試合展開を作り上げました。ディフェンス面でも、激しく前にラインを押し上げるハイプレッシャーをかけ続け、同志社の攻撃リズムを寸断しました。

    一方の同志社大学は、大島選手がプラン通りSOの位置に入りながら、移動攻撃で活路を見出そうと試みましたが、関学の激しいディフェンスの前に苦しみます。ボールを持つ機会は関学と遜色ありませんでしたが、ディフェンスの圧力からボールを前に運べない時間帯が続きました。自らのボールロストやペナルティーを犯す場面が重なり、リズムに乗れず、試合は終始関西学院のペースで進みました。

    試合は終盤まで関西学院がリードを保ち、スコア力の差が明確に表れる形となりました。しかし、同志社も粘りを見せます。後半ラスト10分にアタックを修正し、立て続けにトライを奪う修正力と地力を見せつけました。この猛追は今後に向けて大きな期待を抱かせるものでしたが、前半の失点が響き、結果は21-34で関西学院大学が勝利を収めました。このスコアは、両チームが持つポテンシャルの高さを感じさせると同時に、中盤の規律と決定力が勝敗を分ける鍵となったと感じます。

    この試合から見えてきた両チームの強みと課題を、詳細に分析します。

    ◆同志社大学:司令塔・大島の配置転換に見る「工夫」とアタックの「修正力」

    同志社大学はキャプテンの大島泰真選手を、通常SOやFBが多い中この試合では14番ウイングで起用するという意外性のある布陣で臨みました。これは、彼が本来の司令塔であるスタンドオフ(SO)の位置に移動しながら攻撃を組み立てる、柔軟な移動攻撃を軸とする狙いがあったと見られます。

    苦しんだ前半:関学のハイプレッシャーに沈黙したアタック

    しかし、前半は関西学院大学の激しいラッシュアップディフェンスの前に、同志社のアタックは大きな苦戦を強いられました。

    特に課題となったのは、セットプレーからのファーストアタックでした。ゲインラインを突破できず、厳しいディフェンスのプレッシャーからターンオーバーを招く場面が続出しました。目指していたショートサイドや逆目への移動攻撃、大島選手やFB上嶋友也選手が絡んで相手FWとのミスマッチを狙うプランは、その手前でボールを供給できずに頓挫してしまいました。

    グラウンドワークやサポートのつき方にも課題が見られ、ラックに人を割きすぎることで、次以降のアタックに厚みが欠け、さらにプレッシャーを受けやすい悪循環に陥ったと言えます。FW陣はスクラムでペナルティーを獲得するなど推進力を見せていましたが、細かな連携と立ち位置の修正が急務となりました。

    驚異の後半ラスト10分:スタイル激変が生んだブレイク

    それでも、同志社大学の真骨頂は後半ラスト10分に発揮されます。関西学院のディフェンススタイルに対し、それまでの広く深いアタックラインから大きく戦術を転換しました。

    1. 立ち位置の変更: ディフェンスに詰め切られる前にボールを繋ぐため、狭く深いアタックラインを構え直しました。
    2. 仕掛けの焦点化: ゲインラインへ接近し、トイメン(真正面の相手)へのコミットを誘いながら、ギリギリで裏のキャリアーに繋ぎ、ディフェンスとディフェンスのギャップを突くことに成功。
    3. 攻撃の柔軟性: 10シェイプ(SO周辺)中心にボールを散らしつつ、FWがキャリー後にすぐ起き上がって再度前進する「ピック&ゴー」などを織り交ぜ、相手ディフェンスラインを効果的に下げました。

    この修正力と工夫された仕掛けは見事の一言で、立て続けにトライを奪う地力を見せつけました。最終スコアでは及びませんでしたが、この猛攻は次戦以降への大きな希望となるでしょう。

    ディフェンス:高い個の能力と規律の乱れ

    ディフェンス面では、個々のタックル精度と強度は高いレベルにありました。HO荒川駿選手のジャッカル、LO林慶音選手のカウンターラックなど、要所でのターンオーバーも光りました。しかし、ディフェンス時のペナルティーが重なり、自陣深くでの厳しい展開を招きました。特にモール起点やキックカウンター後のアンストラクチャーな状況で後手に回ることが多く、ディフェンスラインを整える前に攻め込まれる展開が続きました。

    ポイントとして、アンストラクチャー後のエッジ(フィールドのサイドラインに近い部分)で、相手のラックに対してもう一歩踏み込んだプレッシャーをかけ、相手の攻撃テンポをわずかにでもずらすことができていれば、試合の流れは変わっていたかもしれません。これにより、ディフェンスラインがリロード(再配置)する時間を確保し、次のフェーズでのプレッシャーを強めることが可能になります。


    ◆関西学院大学:柔軟なポッドシステムとハイレベルな「計画性」

    勝利を収めた関西学院大学は、「柔軟性と計画性に富んだ」非常にバランスの取れたアタックを展開しました。彼らの攻撃は、個人の能力に依存するのではなく、チームとしての完成度の高さを感じさせるものでした。

    アタック:多彩なシェイプとアンストラクチャーの脅威

    関西学院のFWは、No.8小林典大選手を中心に接点での圧力を意識的に高めており、モールやシンプルな9シェイプから確実にゲインを重ねました。
    特筆すべきは、ポッドシステム(FWの集団配置)の柔軟性です。基本の1-3-3-1を軸にしながらも、状況に応じて3-3-2や1-4-2-1へと変化させ、相手ディフェンスの的を絞らせませんでした。

    最大の強みは、ターンオーバー後のアンストラクチャーアタックです。ブレイクダウンに強いFWをエッジ(外側)に配置することが多い中、関学はエッジにボールを運んだ際にバックスのみでクイックにボールをリサイクルできる点で優位性を発揮しました。これにより、テンポを落とさずに攻撃を継続し、相手がディフェンスラインを整える前に仕留めることが可能となっていました。

    SO阪井優昇選手を中心とした10シェイプから、CTB下元大誠選手へ繋ぎ、バックスラインへ展開する形も確立されており、計画性の高さが伺えました。
    ゴール前では、FWが9シェイプを中心にゴールラインへ垂直に仕掛けつつ、そのFWを飛ばして中選手や下元選手が仕掛け、裏の阪井選手へ繋ぐスイベルパスのシークエンスは、ハイレベルなボール捌きとプレッシャー下でのパスワークの賜物でした。さらに、後半には下元選手がSOに入り縦に仕掛けるなど、複数人がファーストレシーバーになれる強みも披露しました。

    ディフェンス:激しいラッシュと組織力

    ディフェンスは、代名詞とも言える激しいラッシュアップディフェンスが終始機能しました。ボールキャリアーに対して鋭く、膝下に刺さるような低いタックルを徹底し、同志社の勢いを寸断しています。アタックラインの裏に控えるSOに対しても外側から詰めてプレッシャーをかけ、組織的ディフェンスのレベルの高さを見せつけました。

    PR大塚壮二郎選手のタックル後のリアクションからそのままラックを超えてターンオーバーを起こすなど、接点での高い意識も光りました。終盤は同志社の猛攻でブレイクを許す場面もありましたが、裏のバックス陣が高いタックル精度でフォローし、一気にトライを許さない粘り強さも持ち合わせていました。


    ◆データで見る勝敗の分岐点:鍵は「22m決定率」と「規律」

    この試合の勝敗を分けたポイントは、詳細なデータからも明らかになりました。

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    最大のポイントは、同志社と関西学院が同水準の11回、12回の敵陣22m侵入回数がありながら、トライまで取り切る決定率に大きな差が出た点です。
    また、敵陣22m侵入のきっかけとして、関西学院がペナルティー獲得による侵入が多かったことは、中盤での規律の差がそのままスコアに直結したことを示しています。関西学院の激しいディフェンスによって同志社がペナルティーを誘発され、効果的に敵陣に侵入されてしまいました。

    関西学院は、中盤でのキック戦術としてハイパントを積極的に用いていました。これは単にエリアを稼ぐためだけでなく、キック後のチェイスと空中戦の優位性を活かして、ラックでのプレッシャーからターンオーバーを引き起こすという明確な狙いがありました。実際、この積極的なハイパントはいくつかの場面で機能し、同志社のストラクチャー攻撃を出させないという意味でも、有効な戦術であったと言えます。

    また、意図的にロングキックでタッチラインの外に蹴り出さず、インフィールドに残すことも狙っていました。これは、同志社をフィールド内で受け身のディフェンスに追い込み、関西学院が得意とするアンストラクチャーな状況、つまりディフェンスラインが整っていない状況を作り出す勝機を見ていたためだと推察されます。

    アタックシェイプ(攻撃の形)の面では、関西学院は比較的ワイドな展開を中心としており、10シェイプ(スタンドオフを軸とした攻撃)とバックスラインでの展開が攻撃の主軸となっていました。これは、彼らの誇るバックス陣の展開力とランニングスキルを最大限に活かすための設計図でした。

    対してセットプレー、特にスクラムやラインアウトの安定性は、この試合では同志社大学が大きく上回っており、同志社にとって数少ない有効な攻撃の起点となっていました。データ上、同志社はラインアウトからのサインプレーやスクラムでのペナルティー獲得などで優位に立っていたと言えます。

    この安定したセットプレーを活かすため、同志社大学としては、ゴール前付近でラインアウトをより多く発生させることができていれば、FW主導の強力なアタックやモールからのスコアチャンスがさらに増え、得点差を詰めることが可能だったと見えます。セットプレーで得た優位性を、いかに敵陣深くでの攻撃に繋げられるかが、今後の同志社の課題となるでしょう。

    さらに、アタックの終わり方を見ると、同志社が10回のターンオーバーで攻撃を終えたのに対し、関西学院はわずか3回。これは関学のディフェンス精度の高さだけでなく、ボールロストを避けてキックで攻撃を終えるといったマネジメント能力の差も大きく影響したと言えます。

    ◆まとめ:両雄が示した「進化」と今後の期待

    同志社大学は、キャプテン大島選手を中心とした新しいアタックの形を模索しており、後半に見せた驚異的な修正力は彼らの高いポテンシャルを証明しました。今後は、前半のアタックの精度と、ディフェンス時の規律を整えることが鍵となるでしょう。

    一方、関西学院大学は、柔軟で計画的なアタックと、高い組織力を持つディフェンスを披露し、総合力の高さで勝利を掴み取りました。特にアンストラクチャーアタックにおける完成度の高さは、今シーズンの大きな武器となりそうです。今後は、ミドルゾーンでテンポが遅れた際の攻撃のバリエーションがどう進化していくのかに注目が集まります。

    この伝統の一戦は、両チームが更なる進化を遂げていることを示しました。関西ラグビーリーグの行方を占う上で、非常に重要な一戦であったことは間違いありません。

    では。

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:明治大学対筑波大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:明治大学対筑波大学

    一進一退の接戦の最後に、劇的な逆転劇

    みなさんこんにちは
    遂に大学ラグビーのシーズンが始まりました

    今回は関東大学対抗戦より、9/14に行われた明治大学対筑波大学の試合について、見ていきたいと思います

    明治大学のラグビー

    <今節の明治大学>

    明治大学は、リーグ屈指のFW陣と、決定力のあるBK陣でバランその取れた攻守を見せるチームです。接点に定評があり、前に出る力は日本全国を見てもトップレベルでしょう。

    チームのタクトを振るうのはSOの伊藤龍之介選手で、ラン・パス・キックのバランスがいい万能型の選手でありながら、中でもランニングスキルは高水準にあり、攻撃面で突出した能力を持つ選手です。

    そんな明治大学ですが、今回の試合では「らしくない」ポイントがいくつか見られました。一般的な戦略の範囲内では正道とも言える戦略性を見せていましたが、それは得てして明治らしくないとも言える状況でした。

    <苦戦したラインアウト>

    最も顕著に現れた例としては、ラインアウトの成功率の部分ではないでしょうか。19回の試行回数に対して11回の成功と、半数近いラインアウトをミスで失っていることになります。筑波大学側のラインアウトスティールを受けたりと、かなりプレッシャーを受けていた側面が見受けられ、不安定さにつながっています。

    明治は、そういった状況に対して、ラインアウトの一番前で取る、という戦略をとっていました。後半に生まれた西野帆平選手のトライはその最たる例で、ジャンプを解さずにダイレクトに確保することでミスを低減することができます。

    しかし、ここに明治大学としての難しさを感じました。戦略的な正道で言えばこの選択は間違いのないものであるように思います。しかし、明治としてこの選択が正しかったかというと、メンタリティの部分も合わせて不安定になる要因にもなったかもしれません。

    <アタックの傾向>

    アタック全体としては、非常にいい傾向を見せていました。接点で上回り、リズムを出して相手の反則を誘発する。明治らしさもありながら「こうすれば相手が崩れる」というパターンに試合を持ち込んでいました。

    アタックは接点の他にも階層構造を用いて展開を図るシーンもあり、表と裏の構造を使っています。特に相手陣に向かって前進し、モメンタムを獲得できている時に構造的なアタックを使い、深さを生み出しながらさらにモメンタムを出すことに成功しています。

    また、主体的にキックを使ってエリアコントロールやプレッシャーをかけていました。自陣寄りではロングキック、中盤ではハイパントを交えたりと、戦略的なキックゲームに持ち込んでいました。

    ただ、ここも試合展開として難しいところで、個人的な視点としては、中盤での明治の怖さは「展開してくる」ところにあると思っています。伊藤龍選手の展開力と走力、その他の選手の機動力と接点の強さが揃っていたりと、展開するには十二分の力を発揮します。

    しかし、明治はそこまで展開にこだわらず、戦略的な攻防を続けていました。結果として、戦略性の範囲内でのスコアに留まっていたという見方をしています。

    敵陣深くでFW戦に持ち込むことができれば明治の強さを発揮できるのですが、明治はラインアウトに不安定感があり、ゴール前では消極的な選択が中心となっていました。結果としてエッジでのトライになってゴールを狙いづらかったりと、さまざまな要素にラインアウトの不安定感が影響していました。

    <ディフェンスの傾向>

    ディフェンスも悪くはない部分が多かったとは思います。接点でも強く、規律正しいディフェンスを見せており、筑波大学のアタックの多くを下げることに成功していました。

    しかし、それも接点の土俵に立った場合の話で、接点以外の部分に関しては互角か押し込まれるような展開になっていたように思います。
    特にエッジの部分のディフェンスでは、崩された多くの場合でFWとBKのミスマッチを作られています。

    前半に奪われた2トライは、どちらもカメラから見て手前側のサイドを活用された形でした。1つ目のトライは展開の中でFWが偏って配置されてミスマッチを突かれ、2つ目のトライはチェイスラインで唯一のBKであった白井瑛人選手選手がタックルを外されたことによって、BK2人と走力のあるFLに対してFWが2人という状況に陥っていました。

    また、最後の筑波大学の逆転につながったトライのシーンでは、2フェイズ前に明治大学の選手が規律的に順目方向に4人回ってしまい、結果として逆目方向に通されたアタックをBKである海老澤琥珀選手が止めざるを得ない状況になっていました。海老澤選手がタックルをしたことでさらに外側のエリアのディフェンスが薄くなり、トライに繋げられています。

    筑波大学のラグビー

    <今節の筑波大学>

    筑波大学は、接点とブレイクダウンに強みを持つ、上位校食いをすることもあるチームです。泥臭くプレーをすることを得意としています。

    筑波大学は、9番の高橋佑太朗選手と10番の楢本幹志朗選手が、うまく試合展開をコントロールしていたように見えました。
    高橋選手は攻撃的で、楢本選手は安定型の思考をしており、キックを主体に試合を動かしていました。

    特に蹴り合いになった時の楢本選手のキックの精度は高く、単純なキック距離で負けてしまっている時も、前に仕掛けながら左足で放つキックによって、最低限稼いでおきたいラインは越えることができていたように思います。

    <効果的に働いたアタック>

    今回の試合では、特にエッジに展開するようなアタックが効果的に働いていたように感じました。必ずしも大きな展開ではなくとも、エッジでのショートパスで打開しています。

    ここ数年の明治のディフェンスを見ると、中盤での厚さがある反面、エッジでは比較的ゲインを許すなど、アンバランスな堅さのあるチームでした。
    夏合宿の帝京大学戦など、展開力のあるチームに対しては少し苦戦傾向にある印象です。

    筑波大学は、大まかにいうとエッジをうまく活用していました。エッジからエッジのような大きく展開するような形ではなく、ショートサイドのエッジを攻略しています。

    前述したように明治のディフェンスはラックから近いエリアが堅く、つまりラックの位置によってはFWが固まっているような状況が生まれています。そのシーンに対して、楢本選手は細かなサイドチェンジや状況判断で狭いサイドに優位性がある時はそこを狙い、走力のある中森真翔選手をエッジに配置することによって質的にも上回る状況を作り出していました。

    <アタックの傾向>

    筑波のアタックは比較的シンプルで、接点にこだわりの見える形です。9シェイプを多く用い、12番の今村颯汰選手や13番の東島和哉選手といった縦に出られる選手も交えながら、コリジョンで中盤のアタックを安定させています。

    また、今回の試合では前述したようにキックでエリアをコントロールしている傾向も見られました。中盤でのアタックでは苦戦していた様子もあり、早めに蹴り込むことで中盤でミスが起きたりする前にボールを前に運ぶことができていました。
    キックがタッチに出ればプレッシャーをかけ、タッチに出なくても相手の蹴り返しを待つことができるので安定感が見られています。

    基本的には1−3−3−1のような配置を取り、エッジに走力のある中森選手のような選手を配置しています。中盤はタイトファイブの選手とNO8の大町尚生選手を配置して安定したコンタクトを見せ、楢本選手がボールを動かしながら接点を作り出していました。

    ただ、全体的にブレイクダウンでは苦戦傾向にあったように思います。接点の強い明治に押され、人数をかけなければいけなかったり、スティールを狙われて反則を犯したりと、難しい展開でした。

    <ディフェンスの傾向>

    ディフェンスもどちらかといえば苦戦していたという見方をすることができます。相手の接点が強く、一部の選手には大きく前に出られていたりもしました。

    ただ、組織的なディフェンスの部分では多くのシーンで相手を止めることができていたように思います。タックルも低く入ることができており、アシストタックルの精度の高さも見せていました。

    一方で、ペナルティのうちの多くはディフェンス時に発生したものであり、相手がモメンタムを出し始めた時にペナルティを犯してしまったりと相手にポゼッションを献上するようなシーンも見られていました。

    まとめ

    結果としては、筑波大学の逆転勝利という形にはなったが、トライ数は共に4トライと、互角の結果を示している。また、試合全体のモメンタムを見ても、再戦して必ずしも同じ結果になるとは限らない。

    筑波としても、「トライをとって残り2分」ではなく「トライを取られて残り2分」というポゼッションになったのも影響しているかもしれない。トライをとった場合は残り2分で相手キックオフ、トライを取られた場合はこちら側のキックオフとなるため、時間の使い方が変わってくる。

    むしろ、ここからの明治には期待しかないだろう。どの強豪校にも言えることだが、一度負けたチームは必ず強くなる。ここで負けてよかった、と言えるようなシーズンになることを期待したい。

    (文:今本貴士)

  • 【日本代表コラム】日本代表のバックスをロールに注目して考察する – グラデーション化したロールを分類して考える

    【日本代表コラム】日本代表のバックスをロールに注目して考察する – グラデーション化したロールを分類して考える

    みなさん暑い中いかがお過ごしでしょうか

    日本代表のウェールズとの2連戦が終わりました(マオリ・オールブラックスとの試合を含めれば3試合)。
    少しずつ今シーズンの日本代表の戦い方といったところが見えてきたところではないでしょうか。

    そんな中、Xにて選手の果たしている役割を知りたい、というコメントをいただきました。
    実際、近年のラグビーでは、特にBKの選手の役割の多様化が進んでいます。兄弟アカウントでもあるUNIVERSISでも過去に触れてきました。

    https://note.com/embed/notes/n60a51bdff8b6

    そこで今回は、日本代表の試合メンバー、特にウェールズとの2連戦に出場したBKの選手に注目して役割ごとに分類できないか試してみることにしました。分類しながらパフォーマンスを考察していきます。

    ※SHの選手は役割が特にユニークなので、割愛しています。
    ※呼び方は独自のものです。業界共通ではないのでご注意ください

    目次

    1. フラットプレイメーカー
    2. SO:李承信
    3. FB:サム・グリーン
    4. ディーププレイメーカー
    5. FB:松永拓朗
    6. FB:中楠一期
    7. ナインスマン
    8. CTB12:中野将伍
    9. フラットラインメーカー
    10. CTB13:ディラン・ライリー

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    フラットプレイメーカー

    フラットプレイメーカーは、どちらかというと浅い位置でのゲームコントロールを役割とします。相手に接近してパスを放る傾向にあり、自分からのワンパスでゲームをコントロールしようとします。

    SO:李承信

    李選手は、リーグワンでは12番や15番を務めていたこともあり、展開力に優れたというよりも、自分のコントロールできる範囲内のプレイングで打開を図るような役割を果たしています。自分でのキャリー比率も一定量見られており、狭い範囲でのコントロールを得意とするタイプに見えます。

    ウェールズ戦の第1戦ではジェネラルフェイズでのボールタッチ回数が少なく、ボールをコントロールする機会自体が少なく、2戦では回数が増えたもののうまくコントロールをすることができていなかった印象です。
    全体的に少ないパス回数でのキャリーが増えていた様相も見られていました。

    個人的な印象としては、李選手のSOとしてのワークレートは、まだまだ発展途上ではないかと感じています。アタック時の展開力には伸び代が感じられ、まだ自分に近い位置でのコントロールに限られているようにも見えました。

    FB:サム・グリーン

    グリーン選手はリーグワンでは10番を背負っていた選手ですが、交代した際の背番号で言うと15番として試合には投入されていました。
    しかし、個人的にはグリーン選手の良さはフラットラインメーカーとしての強さがあると感じています。

    グリーン選手はスピードのあるタイプのプレイメーカーで、アタックライン自体にスピードを与えることができます。
    キックリターン時のカウンターアタックでも特徴を遺憾なく発揮することができ、素早く相手ラインに向けて体を差し込むことができています。

    しかし、ウェールズとの第2戦で出場した際には、少し役割が李選手とかぶってしまっていたようにも感じました。
    李選手とグリーン選手では少しタイプが違うため、共存も可能かとは思いますが、フラットプレイメーカータイプであるグリーン選手が深い位置に立っていることも多く、グリーン選手らしさを発揮する機会は多くなかったようにも見えます。

    ディーププレイメーカー

    ディーププレイメーカーは、アタックラインの深い位置でゲームコントロールを司る選手です。最初のレシーバーとしてゲームを動かすと言うよりは、ラックから見て二人目の選手、二つ目の階層でボールを受けるような立ち位置をとっていることが多く見られます。

    FB:松永拓朗

    松永選手は、残念ながら第1戦の途中で負傷後退となってしまいましたが、リーグワンの戦いの中で15番として優れたプレイングを見せてきた選手です。松永選手はバックラインの比較的深い位置に位置したり、時に浅い位置どりをしてフラットプレイメーカーのような役割を果たすこともあります。
    ただ、個人的には松永選手はディーププレイメーカーに分類できるプレースタイルをしています。

    中央を自力で突き崩す能力よりも、外に生まれたギャップをつくことに長けており、深く遠い位置からスピードを持ってギャップに仕掛けるシーンが多く見られていました。
    パス能力や視野にも長けているため、大きく前に出た後の選択を外すシーンも少なく、安定したプレイングを見せています。

    代表戦では負傷の影響で長いプレー時間がありませんでしたが、第1戦で生まれたトライに関わっていたりと、ポジショニングの能力は見ることができたかと思います。

    FB:中楠一期

    中楠選手は、ディーププレイメーカーの中でも表と裏の両方に選択肢を作ることができる選手です。今回のウェールズとの2連戦、リーグワンで務めていた10番とは違うポジションでの出場となりましたが、深い位置でのゲームコントロールを主軸に、浅い位置での選択肢としてのプレイングも光っていました。

    特徴的だったのが第2戦の前半に見せたビッグゲインで、通常時であれば2枚目の裏に入ることが多かった中楠選手が、このシーンでは表のラインでディラン・ライリー選手からボールを受けていました。
    スピードとアングルも的確で、1回のパスの動きだけで大きなゲインを手に入れていました。

    ただ、今回の2試合では15番、ディーププレイメーカーとしての役割をこなすことが多かった中楠選手ですが、個人的には浅い位置でのプレイング、フラットプレイメーカーとしてのロールも見てみたい気持ちです。
    突破力では他の選手に軍配が上がるかもしれませんが、ファーストレシーバーとしての能力は高いため、可能性が見られるかもしれません

    ナインスマン

    ナインスマンとは、主に12番の選手がこなすことの多いロールで、FWとともにポッドを作ることが多いのが特徴です。パスの頻度は一般的な12番よりも控えめで、接点に強みのある選手が該当する場合が多く見られます。

    CTB12:中野将伍

    中野選手は、サンゴリアスでは器用で接点に強いタイプのキャラクターですが、代表では接点の部分のワークレートが特に重要視されているように感じます。
    9シェイプ・10シェイプ問わずポッドに参加してFWと同じようなロールをこなすことが多く、中盤での展開を担っているシーンはあまり見られなかったのではないかと思います。

    中野選手の持ち味は恵まれた体格による接点の強さです。安定したコンタクトを見せており、シーンによってはオフロードを繋ぐといった器用さも見せることがあります。
    実際に試合を見る限りでも、接点の部分では十二分に戦えていたことが印象に残っています。

    しかし、実際のところ2試合目ではミスが目立つ結果になっていました。
    私は、これの要因として「役割の過多」があると考えています。
    本来であれば器用さから展開にも強みがある中野選手ですが、今回のシリーズでは接点に偏った運用をされていたように感じました。

    基本的にボールを持てばキャリーに繋げ、展開時もFWとしての動きが目立っています。
    その結果としてプレーの精度が下がり、後半のワークレートの低下につながったのではないかと思います

    フラットラインメーカー

    フラットラインメーカーは、アタックラインを構成する選手のうち比較的浅い位置でプレーする選手です。展開と接近戦のバランスもとりながら、キャリーでも強みを発揮する選手が当てはまります。

    CTB13:ディラン・ライリー

    ライリー選手は、ブレイクした後のスピードも含め、全体的にバランスの整ったランナーの一人です。ハンドリングの器用さもあり、キャリーから繋ぐことにも長けています。

    ライリー選手のウェールズ戦での運用としては、どちらかというとキャリー寄りの働き方であったように感じます。展開を司るといったパターンよりも、早い段階でボールを受け、そのままキャリーに持ち込むパターンが多く見られました。

    運用の是非については難しいところですが、ライリー選手の鋭い突破力とハンドリングを生かそうとする流れの中では比較的妥当な運用であったと感じます。
    一方で、ライリー選手が少しラックから近い位置での運用となっていたため、ライリー選手のスピードを生かしきれていないようなシーンもあったように思います。もう少しプレイングエリアを外側にするなどの工夫ができるかもしれません。

    スプリンター(仮名称)

    スプリンターはBKの全タイプの選手の中で特に走力に優れたタイプであると定義しています。スプリンターはエッジで運用され、外で生まれた数的優位を突いて相手を振り切るようにプレーするのが特徴です。

    WTB11:マロ・ツイタマ

    ツイタマ選手はブルーレブズでも外側のエリアを主戦場としています。外側で生まれた空間を生かし、スピードを使ってトライまで取り切ることを得意としています。

    ウェールズとの2連戦では1戦目に出場し、環境などに苦戦しながらの途中交代となりました。アタックラインの深い場所に位置し、展開する役割も任されていたように感じます。
    ただ、キックレシーブなどで特に苦戦していたようにも見えました。

    キックレシーブに関しては環境要因も影響しているかもしれませんが、改善すべき因子ではないかと感じられます。
    また、バックラインの中間地点としてライン参加した時の不安定さも気になる部分ではないかと思います。
    求められるロールとしてはマルチタスクの様相もあるので、この辺りの調整が待たれるかもしれません。

    WTB14:石田吉平

    石田選手はスプリンターであり、ステッパーでもあります。役割としては大外で距離感をキープしながら数的優位性を活用するようにランニングを見せることです。石田選手はツイタマ選手とは異なり明確にインサイドに仕掛けるシーンは少なめで、セットプレーからのフェイズで仕掛け役になるくらいではないかと思っています。

    ウェールズ戦の第1戦ではセットプレーからの一連のフローに絡み、スピードとアングルを生かしながら効果的なアタックに繋げていました。それ以外のシーンでも、スピードと足腰の強さを生かしてエッジでの前進に貢献していました。

    ハイボールでも、ある程度の強さは見せていたように思います。高さ自体はより大柄な選手に劣る部分はあるかと思いますが、再獲得のチャンスを掴むことはできていました。
    それ以外の部分でも安定感のあるプレイングを見せており、主たるロールの部分はこなすことができていたように感じます。

    ペネトレーター(仮名称)

    BKの選手のうち、突破力に優れた選手として定義しています。パワー系のランナーが該当することが多く、走力と接点の強さが特徴になっています。

    WTB11:ハラトア・ヴァイレア

    ヴァイレア選手はエッジに配置されることが多く、エッジで突破力を生かしながらトライを取ることを得意としている選手です。
    数的な優位性が作れていないシーンでも相手を巻き込んで前に出ることがでできるため、外側のエリアでパワープレイに繋げることができます。

    ウェールズとの2連戦では、1戦目の途中交代、2戦目の先発として出場しています。試合ではエッジに近い位置での突破役として活躍し、複数人を巻き込みながら前に出るシーンを見せていました。
    その他のパワープレイも安定しており、エッジでの切り札の一つとしていいプレーを見せていたように感じます。

    一方で、少し課題となったのはハイボールの確保の部分です。回数自体はあまり見られなかったのですが、ハイボールを競り合う段階での「高さ」の部分での不安定性がありました。
    ペネトレーター系の選手は苦手とすることも多いのですが、インターナショナルではキックの重要性が高まる都合上、この部分には安定感が必要かもしれません。

    まとめ

    これらのように、チームから任されているであろうロールと、得意とするロールが重なっていないような選手も見受けられているように思います。
    どちらに合わせるかはHCの匙加減になってくるかと思いますが、現状としては、一定の調整は必要かもしれません。

    ロールはアタックの狙いに沿った組み合わせで効果を発揮するので、うまい組み合わせを模索していきたいものですね。

    それではまた。

  • 【マッチレビュー】2025ニュージーランド代表対フランス代表第1戦

    【マッチレビュー】2025ニュージーランド代表対フランス代表第1戦

    不運な状況でも掴んだ勝利

    みなさんこんにちは
    暑い中いかがお過ごしでしょうか

    さて、今回は日本時間7/5に行われたテストマッチから、ニュージーランド代表対フランス代表の試合について、レビューをしていきたいと思います

    それでは順番に見ていきましょう

    ニュージーランド代表のラグビー

    テンポを上げる様相を見せていた

    ニュージーランドは、コーチの試合前の発言通り、テンポを重視したラグビーをしていました
    SHからの球出しも早く、素早くセットしてアタックのテンポを上げようとする様子が見られています。

    テンポを上げるメリットとして、相手のセットよりも先に攻撃を繰り広げることができるという点があります。
    相手よりも先にセットをしてアタックをすることができれば、位置的な優位性や数的優位性を活かしてアタックをすることができます。

    ニュージーランド代表がテンポを意識していた傾向の証左として、球出しの速さの他にも「ピックゴーを多く用いていた」という様相があります
    ピックゴーはパスを介さずにダイレクトにラックからボールを持ち出す動きで、タイミングと状況が整えば後ろに下げるリスクを負うことなく前に出ることができる手段でもあります

    SHに入ったキャム・ロイガード選手とコルテツ・ラティマ選手はともにテンポを上げることのできるSHで、自分でボールを持ち出したりと攻撃的な様相も見せています
    ラックの周辺にポジショニングしているFWの選手に対して、SHという特性を活かしたアタックをすることで、ミスマッチをつくことができるという特徴もありました

    ポッドを中心としたアタック構造

    アタックの起点となるのは、ラックからボールを受ける3人の選手によって構成される9シェイプで、基本的に中盤には3人の選手によるポッドが二つ配置されます
    多くのフェイズではこれらの基本的な構造を用いてアタックをしていました

    ただし、注意したいのは必ずしも3人のポッドだけでアタックを作り上げているわけではないという点です
    10シェイプにおいては、特にテンポをあげてバックラインを使おうとする時などに、2人の選手でポッドを完結させるようなシーンも見られていました

    また、ジェネラルなシーンでもポッドの人数は可変的で、FWの配置の人数が変わるというよりも、BKの選手が参加することで人数が変わっているシーンが見受けられました

    12番のジョーディ・バレット選手や13番のビリー・プロクター選手は、ポッドに対して第3・第4の構成員として参加しています
    ポッドに参加する位置はフェイズによってまばらで、中央に位置することが多い一方で、端に位置するシーンも見られていました

    CTB陣がポッドに参加するメリットとして、(基本的に)ハンドリングに長けたBKの選手をポッドに組み込むことによってアタックを安定化させることができます
    また、ポッドの一員としてCTBの選手を組み込むことによって、さらに外側でポッドを作ることもできるので、ポッドの数を増やしてバリエーションを作ることができるという側面もあります

    そういったBKの選手を組み込みながら、ポッドは4人や5人で構成されているシーンもありました
    後述するフランス代表のポッドでも似たようなシーンが見られていましたが、ニュージーランド代表の方はBKが中央にポッドをスプリットするように参加する形で、ポッドにボールが渡ってからのオプションを増やしていました

    プレイメーカーによるゲームコントロール

    ゲームのコントロールをしていたのは10番のボーデン・バレット選手と(不運なことに前半すぐに交代出場した)23番のダミアン・マッケンジー選手でした
    両者はスーパーラグビーで共に10番をつけている選手で、プレイメーカーとして早い段階でボールを受けてコントロールしていました

    両選手ともに判断に優れた選手ですが、特にボーデン・バレット選手は自分の判断の優先順位が上がった際にはポッドを破るように前に出ながらアタックラインに参加するようなシーンもあります
    マッケンジー選手はどちらかというと少し後ろ重心のアタック参加で、少し空間があるような状況でボールを受けているように見受けられました

    また、2選手を含むバックスラインが安易に順目に回らないようにしているシーンも見られていました
    特にゴール前でのアタックシーンにおいて、BKの選手は比較的ラックに近い位置どりをしながら滞留し、状況判断でチャンスと見た場合には展開してアタックラインを形成していました

    どちらのサイドにも動的にアタックラインを作ることができる状況を準備することによって、相手のディフェンスに対して後出しでセットをすることができます
    特にサイドを切り替えながら動的にアタックラインを作る「スイング」という動きにコンパクトに繋げることもできるため、より意思決定と状況判断に応じた動きであると言えます

    フランス代表のラグビー

    特徴的なポッドによるコントロール

    基本的にはこの特徴に尽きるようなラグビー構造に見えました
    各選手のロールは似通ったものも多く、明確な位置関係・役割の分担があるというよりは、瞬間瞬間の最適解になる選手が定められたポジションに移動するというような形をとっていたように感じます

    フランスのポッドの特徴は、極めて流動的で余白のある構造をしていることです
    基本的な構造としては3人構成を中心としながらも、多くのシーンで4人から5人、多い時は6人ほどの集団一直線上に並んだような構造をしています

    果たしてポッドと呼ぶのが正しいのかわからないような構造をしていますが、ここではポッドと呼ぶことにします
    フランスのポッドはフェイズによって人数が変わり、わかりやすく尖った形というよりは、線形の構造をしています
    イメージとしては、バックスラインに対してFWのフロントラインが傘のように被さっている状態です

    おそらくアタックの中心になっているのはポッドを使った個々のスキルや優位性を使ったキャリーで、ポッドを使ったキャリーでいかに前に出るかといった点の重要度が高いラグビーをしています
    あえて言及するのであれば、「FWで縦を突き、BKで横に広げる」といった極めてクラシカルな構造かもしれません

    このポッド構造には、BKの選手が参加することもあります
    12番のガエル・フィクーや13番のエミリアン・ゲイルトンは、テンポの加速に合わせてフロントラインに立つようになり、フロントラインとバックラインの境界が曖昧になるようになっていました

    シーンによっては11番のギャビン・ビリエールが参加するようなシーンも見られています
    しかし、ポッドに参加する際にBK特有のロールがあるようには感じられず、あくまでもポッドを構成する一選手としてのプレーに徹していたようにも感じます
    そのような点で、選手たちのロールは似通っていました

    ポッド内のプレースタイル

    また、ポッド内のパスワークが多様だった点についても注目しています
    基本的にポッドの中のプレースタイルとしては、そのまま自身でキャリーに持ち込むか、一つ横の選手にパスをする、またはバックラインに対してスイベルパスをする、といった形が考えられます

    フランス代表は、このパターンの中で「パス」に特化したプレイングを見せていました
    スイベルパス自体はそう多くはなかったように感じていますが、ポッドの中でパスを使って打点を切り替えるという点において、他の国にはあまり見られないようなバリエーションを見せていたように思います

    まずは基本となるティップオンパスですが、こちらもある程度「好んで用いている」くらいの頻度で見られていたように感じます
    こちらのパスは打点を切り替えることに活用されており、相手とコンタクトする直前でパスを出すことで1対1を安定して作ることができていました

    また、特徴的だったのはポッド内のミスパス、いわゆる「飛ばしパス」と呼ばれるパスを見せていたことです
    基本構造である3人ポッドであればなかなか活用が難しいミスパスですが、フランス代表は4人以上のポッドも多く用いており、多くの選択肢を同時多発的に準備することでパスのバリエーションも増やしていました

    特にポッドの外を見ているニュージーランド代表のディフェンスにとっては、裏に立つバックラインへのフォーカスも切らすわけにはいかず、フロントラインの中で大きくボールが動くことによって完全に崩されるようなシーンも見られていました

    まとめ

    ニュージーランドとしては、少し物足りない結果といったところでしょうか
    近年苦戦していた相手ということもあり、「マストウィン」が求められる試合だったと思います

    今回の試合では勝利を収めることができましたが、フランス代表のメンバーがノンキャップの選手が多かったこともあり、もう少し圧倒したかったかもしれません
    まだ今後も試合があるので、注目していきたいところです

    それではまた

  • 【マッチレビュー】JAPAN XV対マオリ・オールブラックスを分析する

    【マッチレビュー】JAPAN XV対マオリ・オールブラックスを分析する

    課題となった一貫性

    みなさんこんにちは

    日本代表、またそれに準ずる代表の試合がついに始まりました。
    セレクションも、試合も楽しみにされていた方が多かったかと思います。

    今回は6/28に行われた、JAPAN XV対マオリ・オールブラックスの試合について、分析的に見ていこうと思います。

    目次

    1. JAPAN XVのラグビーを質的に振り返る
    2. アタック面での様相
    3. ディフェンス面での様相
    4. JAPAN XVのラグビーをスタッツから振り返る
    5. 前半のスタッツ
    6. 後半のスタッツ
    7. 総合スタッツ
    8. まとめ

    JAPAN XVのラグビーを質的に振り返る

    アタック面での様相

    JAPAN XVは、アタック面での様子を見ると超速ラグビーのスローガンに応じた、早い展開をしていたように見えました。
    SHの福田健太選手の捌きもスムーズで、リズムよくボールを動かしていた様子が見て取れるかと思います。

    アタックのイメージではパスが多く、全体的にボールを動かそうとする意図は見えました。SOに入ったサム・グリーン選手はパス比率の高い選手で、ボールを受けてからは早いリズムでボールを動かしていたように見えます。
    後述しますが、パスに対するキャリーの比率も少し小さめで、パス優位のアタックをしていたということができます。

    ポッドの基準は3人で構成され、近年リーグワンでも見られていたような4人でのポッドはあまり見られなかったように感じました。
    その一方で、2人ポッドに遅れてサポートの選手が入るといった形は一定数見られており、どちらかというとアタックラインの広さに対してポッド構成はコンパクトだったようにも見えます。

    ポッド構成が2人だったシーンを振り返ってみると、きっちりセッティングした結果2人になったというよりは、テンポをあげてアタックを繰り広げた結果として2人でスタートするようになったという方が近いように感じます。
    ラック自体はキャリアー+2人のサポートで完結させようとする様相が見られていたため、2人ポッドに対しては、内側から一つ前のラックなどに参加していた選手選手が後出しで参加していたようなシーンが見られていました。

    こういった形を成立させるためには内側の選手のワークレートが必須になってきますが、これに関しては全体的にできたりできなかったりといった部分があったように見ています。
    必ずしも安定しているわけではありませんでしたが、内側からのサポートをしようとする意図はしっかりと見られており、今後につながるような様相が見られていました。

    ポッドを構成する3人の選手に関しては、必ずしも中央の選手が突出するような形ではなく、時折線形にフラットに並ぶシーンも見られていたように感じます。
    そのようなシーンでは必ずしも中央の選手が受ける形ではなく、SHの判断で1人目・3人目の選手にもパスを放るというような形もありました。
    3人に対するパスの選択肢があるという点で、少し相手のコミットをずらすことができていたようにも見えます。

    また、9シェイプや10シェイプに対してBKの選手が参加したパターンというのも見られていました。
    参加していたのはチャーリー・ローレンス選手やシアサイア・フィフィタ選手、途中交代したハラトア・ヴァイレア選手といった、アタックにパンチのある選手が揃っていました。

    そのため、3人で構成されたポッドを多く用いる傾向にあり、ラック自体は安定していたようにも見えます。
    ただ、いわゆるボールプレイスメント、ラックの中でボールを適切に後ろに送る動きの部分では少し不安定な部分があり、ボールがこぼれてしまったり、相手に絡まれたりといった部分は見られていたように思います。

    また、特に9シェイプで激しくプレッシャーを受けることで、前進を図ることができていなかったことも試合に影響していたように見えました。
    ポッドを使ったアタックで前進することによって相手のディフェンスを動かし、優位性を作るフローを成立させることができます。
    その部分で優位に戦うことができなかったことで、相手にとっては簡単な移動だけでディフェンスを成立させることができていました。

    ディフェンス面での様相

    ディフェンスは、かなり苦戦したように見えました。
    相手に許したラインブレイクも多く、タックルを外されたり完全に崩されたりと、試合全体で一貫した水準のディフェンスはできていませんでした。

    何点か注目したポイントがあります。
    まずは相手のスイングの動きに対するディフェンスの部分で後手に回るシーンが多く見られていたという点です。

    スイングとは、逆サイドやラックの後ろのエリアから順目方向に動きながらアタックラインを後出しで構築する動きのことで、近年様々なチームで見られている動きになります。
    マオリ・オールブラックスはこの動きを多く用いてアタックを繰り広げており、JAPAN XVはこの動きにかなりやられていたように思います。

    JAPAN XVのラック周辺の動きとして、人数を見ながら両サイドに適切な人数比で広がるという動きが遅いという傾向にあります。
    特にフォールディングと呼ばれるラックに対して反対方向に移動する動きについては、不足していたり過剰だったりと、相手のモメンタムに影響を受けてコントロールしきれていない様相が見られていました。

    また、広めに立った相手の9シェイプに対して、比較的外側の選手がコミットしてしまうことによって、フォールディングが遅れているようなシーンもありました。9シェイプで強いプレッシャーを受けることで一つのコリジョンに対して人数を割く必要性があり、選手たちがラック周辺にフォーカスを向けることで外方向に数的優位性を作られてしまうようなシーンも見られていたように思います。

    また、もう一つ見られた現象として、突出するような動きを見せている選手が複数人見られていたことが挙げられます。
    ディフェンス自体は相手のラインに対して早いスピードで自分たちのディフェンスラインも上げ、プレッシャーをかけるスタイルが見られていました。
    これは多くのチームで見られている傾向で、前半は比較的有効に働いていたように見えます。

    しかし、前半の一部、後半の複数のシーンで飛び出すように前に出る選手が見られていました。
    その動き自体は必ずしも悪いものではなく、適切な位置関係やスピードであればプレッシャーをかけられる動きでもあります。

    ただ、その動きを外された後に大きな前進をされており、内側からディフェンスラインを押し上げる動きがあまり見られていなかったことがわかります。一人だけ前に出てしまうことでその内側に生まれたギャップを突かれるといった形が多く見られていました。
    飛び出す選手に対して特に内側の選手が合流できておらず、ディフェンスラインに断絶が起きていました。

    JAPAN XVのラグビーをスタッツから振り返る

    今回は、JAPAN XVのアタックに関連したスタッツをつけたので、チェックしていきたいと思います。

    前半のスタッツ

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    このスタッツからは、JAPAN XVが大きくボールを動かそうとしていたことが見て取れます。
    キャリー55回に対して100回のパスが生まれており、1回のキャリーに対して2回近くパスをしていたことがわかります。
    9シェイプを多く用いていれば1回のキャリーに対して1回のパスといった比率に収束していくため、その分ボールを動かしていた、と言えます。

    また、6回の敵陣22mエリアへの侵入に対して3回の得点機会が生まれています。17回のポゼッションのうち6回が敵陣22mエリア内に入っていることを考えると、エリア的にも有効なアタックができていたと考えられます。
    2回のラインブレイクの全てがスコアに直結していたわけではありませんが、侵入回数に対してそう悪くはないアウトカムを見せていたと言えるかもしれません。

    セットピースは大まかには安定、限定して言えばラインアウトが少し不安定だったという言い方になるかと思います。
    スクラムに関してはかなり安定した様子を見せていたので、アタックの起点としては十二分の効果を見せていたということができます。

    後半のスタッツ

    画像

    後半は、ボールの動かし方は比較的一般的な水準に落ち着いています。43回のキャリーに対して66回のパスと、1回のキャリーに対して1.5回のパスが見られているといった比率になっています。
    この比率は一般的な水準であり、9シェイプとそれ以外のアタック様相をバランスよく用いていることの証左でもあります。

    しかし、ポゼッション回数やキャリーの回数に対して、ラインブレイクや敵陣侵入回数を増やすことはできていませんでした。
    キック回数の増加やポゼッションに対するキャリーの回数を見ると、ポゼッションを少し手放す傾向にあったことも感じられますが、結果的にスコアチャンスはあまり作ることができていなかったことがわかります。

    また、ターンオーバー回数も増えています。
    単純に回数から計算すると21回のポゼッションのうち9回は自分たちの望む形ではないボールの手放し方をしているということでもあり、水準を改善していくことが求められます。

    総合スタッツ

    画像

    このスタッツを見ると、一般的な水準に比べると少しパスが多い、ということができます。
    1回のキャリーに対して1.7回のパスが見られていたりと、後半にかけて若干の減少傾向が見られてものの、少しパスの比率が高いということができます。
    1回のポゼッションに対するキャリー回数は2.6回となっており、ポゼッション優位ではありましたが、振り切った形ではないと言えます。

    気になる部分としては16回のターンオーバーロストでしょうか。
    自分たちの望む形ではないボールの移譲が生まれることによって対応が遅れたり、チャンスを不意にしたりといった状況が生まれる可能性を高めてしまいます。
    実際に、ターンオーバーからトライを奪ったシーンも、奪われたシーンも見られていました。

    一方で、セットピース自体は悪くない数値を見せているように思います。
    細かい部分は専門家の解説に一任しますが、数値としては悪くないかと思います。
    あとは、この安定した数値をスコアに繋げられるかが勝負になってくるかと思います。

    まとめ

    個人的には、この試合結果を悲観的には捉えていません。
    ただ、楽観的に捉えられるものではないようにも思います。

    現実問題として53点を奪われており、ディフェンスには課題が残っています。アタック面では敵陣侵入回数に対するスコアアウトカムやそもそも侵入できないといった課題が見られています。

    ウェールズ戦に向けて、時間はそう多くはありませんが、改善が必要であるのは必至ではないかと感じました。

  • 【マッチレビュー】2025関東大学ラグビー春季大会Aグループ:早稲田対大東文化を質的分析で見てみた

    【マッチレビュー】2025関東大学ラグビー春季大会Aグループ:早稲田対大東文化を質的分析で見てみた

    今シーズンも、大学ラグビーが始まりました。
    みなさんも、お待ちかねのことだったと思います。

    今回は、4/20に行われた関東大学春季大会より、早稲田大学対大東文化大学の試合について、分析をしてみました。
    アングルの都合上、質的分析のみとなることをご容赦ください。

    それでは、見ていきましょう。

    早稲田大学のラグビー

    ・10番起点のアタック

    早稲田のアタックの中心となっていたのは、今シーズンも服部亮太選手だったように感じます。
    SHの糸瀬真周選手とのコンビネーションでグラウンドを広く使い、ボールを積極的に動かしていました。

    昨シーズンから注目する材料になっていましたが、服部選手は走力にも優れるタイプのプレイメーカーで、今回の試合でもステップを効果的に用いてノミネートされた相手との位置関係をずらしていました。
    外に膨らむような動きから鋭角にステップで切れ込むこともできるので、ビッグゲインこそ少なかったものの、ノミネートがずれて相手の他の選手が寄せられることによって、ある意味強引に局地的な数的優位性を作ることもできていました。

    また、キックも相変わらずの飛距離です。
    中盤で相手のキックを受けた際には距離のあるパントとロングキックの中間のようなキックを蹴り込み、キックを受けた選手に対して激しいプレッシャーをかけていました。
    対空時間も長く、本来であれば味方が追いつきづらいような距離のキックであっても、十分に間に合うほどの時間を稼ぐことができていました。

    アタックの主体は9シェイプでしたが、それと同程度に用いられていたのが10シェイプです。
    10番に入った服部選手に対して3人の選手が配置され、選択肢を作っています。

    この10シェイプの構築が他のチームと少し異なる部分で、多くの場合では3人の選手が服部選手に対してオープンの位置に並んでいます。
    しかし、一定数のフェイズにおいて、2人と1人にスプリットをして、オープン側に2人、内側に1人というアタックの組み方をしていました。

    このようなスプリット形式の配置によって、相手にとって選択肢を押し付けることができます。
    普通の10シェイプではオープン側に並んだ3人の集団の、大体が中央の選手にパスを放ることになります。
    この場合、3人がまとまっていることでラック形成の際に安定感が出るというメリットがあります。

    これに対して、2人と1人にスプリットをすることで、内と外のパス選択肢が生まれます。
    3人の集団では1方向でしかなかったアタックフローが、スプリットをすることで2方向に選択肢が生じます。
    2人側の配置を、2人をフラットに配置することによってさらに投げ分けの選択肢が生まれ、バリエーションを増やしていました。

    服部選手はパススキルも高く、投げ分けによってワンパスでモメンタムを作り出すことができます。
    一つのパスで動く盤面ですが、大きな効果を示していると言えます。

    ・アングルと接点

    早稲田のアタックは、今回の試合に関しては接点に比重を置いていたように感じます。
    アタックの中で数的優位性を作って外展開をするといったシーンはそう多くはなく、中盤からのビッグゲインでトライまで取り切るといったシーンはそう多くなかったように見えました。

    前述した9シェイプと10シェイプもそうですが、アタックの肝となっていたのはボールを受ける際のアングルです。
    9シェイプの中で生まれたティップオンパスに対してアングルをつけて走り込んだり、12番と13番のコンビネーションからなるアングルをつけたアタックなど、単なる接点ではなく、瞬間的な位置的優位性を作り出すことにこだわっていたように感じました。

    特に優れたアングルを見せていたのは13番の金子礼人選手です。
    12番の黒川和音選手とのコンビネーションで、相手にジワリと仕掛けた黒川選手に対して近いエリアに向けてアングルをつけながらキャリーに至っていました。
    体も強く、真正面からタックルを受けなければ安定したキャリーにもつながっており、ゴール前のアタックではリズムを作ることにも貢献していました。

    また、8番に入った城央祐選手もキャリーで優れたシーンを見せており、アングルをつけた走り込みで、相手の上に乗るキャリーを見せていました。
    ゴール前でのアタックでは2本のトライを取ったりと、チームのモメンタムを活かしつつも、体の強さを活かした突貫を見せていました。

    早稲田は得点に対して相手を崩し切った回数はそう多くはなかったように感じています。
    ただ、相手をドミナントするキャリー、つまり相手のタックルの上に乗ったり相手のタックルを受けながらも前進するキャリーをこなすことによって、相手のミスやペナルティに繋げ、結果として敵陣でのセットピースに繋げていました。

    ・激しいディフェンス

    ディフェンスでも、相手のアタックを効果的に封じ込めていたように見えました。
    接点の位置を完全に押し込みながらディフェンスを続け、相手アタックラインとの間に生まれる空間を積極的に埋めるようなディフェンスをしていました。

    タックルは低く、激しさの伴うもので、接点が弱いわけではない大東文化のキャリアーに対して、前に出られることなく倒し切っていました。
    少し飛び込むようなシーンも見られましたが、シーズンの深まりにつれて修正も容易である部分であると思います。

    結果的には4トライを奪われていますが、1トライは個人のスキルの部分、2トライは早稲田側のミスからダイレクトにターンオーバートライを奪われた形でした。
    ジェネラルフェイズのディフェンスで崩されたシーンは多くなかったので、自信のつくディフェンスフローではなかったかと思います。

    大東文化大学のラグビー

    ・階層構造とエッジアタック

    大東文化は、ある程度階層構造を使った攻略を意識したアタックをしていたように見えます。
    10番の伊藤和樹選手のボールのもらい方とチャンスの活かし方を見ると、階層構造をダイレクトにラインブレイクに活かそうとする様子が見受けられるからです。

    アタックの構造としては一般的なものに準じたもので、9シェイプと10シェイプに、フェイズに応じて3人の選手を配置する形かと思います。
    昨シーズンは4人ポッドを組んでいるように見えるシーンも散見されていましたが、今回の試合では明確な4人ポッドはなかったように感じます。

    アタックの基本イメージとしては階層構造を活かしていこうとする様子が見られていますが、多くのフェイズでワンパスで相手とのコンタクトが生まれるシーンが目立っており、ボールを動かし切れなかったようにも感じました。

    アタックのフローとしては、エッジを指向したアタックがうまくいっていたように見えました。
    階層構造を用いて崩しを生み出したシーンは見ている限りでは一度きりでしたが、中央エリアでの連続アタックからエッジを狙ったアタックでは、数的優位を生かして大きな前進を見せていました。
    流れの中でアタックに幅を持たせ、幅を活かしていたように思います。

    ただ、アタック自体のテンポは早稲田と比べるとゆったりとした形で、流動的に優位性を作ることもできておらず、ゲイン獲得自体はかなり苦戦していたように見えました。

    また、パス回数を重ねることができたアタックではある程度攻略の糸口のようなものは見えていたと思うので、もしかすると接点の作り方の部分に工夫の余地はあるかもしれません。
    個人の領域でも、15番のタヴァケ・オト選手のようなスキルフルな選手もいて、活かしどころの工夫で攻撃力の向上も図れると思います。

    ・苦戦した接点

    接点としては、かなり苦戦した方ではないかと思います。
    チームのスタイルとしてはある程度接点で前に出て、相手との間に空間を作ることでアタックに工夫を加えるような形ですが、肝心の接点の部分で相手に空間を奪われ、余裕を失っていました。

    アタックの中心であるポッドを使ったアタックですが、理想的な形としてはポッドの選手が走り込みながらプレー選択をする、もしくは止まるくらいの勢いでボールを受けてそこからプレー選択をする、といった形が考えられます。

    しかし、今回の試合では、素早い出足の早稲田のディフェンスにプレッシャーを受けることによって、その選択肢を選び取るという時間を奪われていました。
    シンプルなコンタクトに終始し、優位性のあるコンタクト姿勢を作れたシーンもそう多くはなかったように見えました。

    ポッド内でのパスワークといった工夫もあり、接点での圧力をずらそうとする意図は見えました。
    ただ、パスをする選手と受ける選手が同じ角度で走っていることで相手としては押さえやすくなり、パスをする選手の相手とのコミットも甘いために読まれやすかったという側面はあるかと思います。

    また、ブレイクダウンにもかなりプレッシャーを受けていたように思います。
    ジャッカルを受けるだけではなく、サポートに入った選手にコミットされることによってラックの周りの空間を押し込まれ、ボール出しにも苦労していたように見えます。

    まとめ

    大学ラグビーの春シーズン、最初の分析は早稲田大学と大東文化大学の試合からでした。

    早稲田は主力の代替わりや、U23への派遣などでまだまだ固まっていないスコッドだったように思います。
    とはいえ、高い攻撃力でゲームを支配していました。
    ここに主力が戻ってくるのが楽しみです。

    大東文化は昨シーズンのリーグ王者ですが、大学選手権では京都産業大学に敗れるなど難しいシーズンでもあったと思います。
    主力の卒業などもあり、ここからの組み立てが大事になってくることでしょう。

    今回は以上になります。
    それではまた。

    (文:今本貴士)

  • 【ラグビー戦術コラム】アタックシーンをレイヤー構造で考える

    【ラグビー戦術コラム】アタックシーンをレイヤー構造で考える

    みなさんこんにちは
    ついにリーグワンが開幕しますね

    今回はミニコラムとして、近年のアタック構造を「レイヤー」の概念を使って考えて見た内容を文章にしてみようと思います

    それでは見ていきましょう

    アタックにおけるレイヤー構造とは

    アタックにおけるレイヤー構造思考では、ラックからのピックゴーなど、パスを介さないダイレクトなキャリーを「レイヤー0」とし、パスを挟むごとにレイヤーを超えていくと言う概念です

    つまり、9シェイプやダイレクトなSO役へのパスをレイヤー1、その次のパスで受ける選手をレイヤー2と設定していると考えていただければ大丈夫です
    最大レイヤーに関しては、現状では設定が難しいと考えています

    以下、イメージ画像になります

    画像

    以前別記事で述べたような階層構造を概念的に捉える新しい見方とも言えるかもしれません

    https://note.com/embed/notes/n467878326b39

    前回の階層構造の考え方と何が違うかを述べるとすると、「選手の位置的な前後関係を主とする構造体系」と言う形になるかと思います

    レイヤー構造で思考するメリット

    レイヤー構造でアタック形式を考えることのメリットを挙げるとすると、「位置関係主体でアタックを見ることができる」という点があるでしょう

    レイヤーという形で階層構造を捉えると、パス回数とレイヤーを紐づけることができます
    パスをすることでボールを下げることを階層的に見ることができ、また「どの選手たちが同格の位置関係にあるか」ということも見ることができます

    発展した見方で言うと、ループプレーのようなパスをした選手が移動する形でパスを再度受けるような場合は「レイヤーを越えた移動」と言う言い方をすることができます

    今後に向けて

    現在この構造思考を随時練り上げ中になります
    よりわかりやすく、現象を描写できるように記事も更新していきます

    今回は以上になります
    それではまた!

  • 【日本代表コラム】「大学生日本代表」矢崎由高を見る

    【日本代表コラム】「大学生日本代表」矢崎由高を見る

    日本代表の試合を見ている、もしくは応援しているラグビーファンの中で「矢崎由高」という名前を知らない人は恐らくいないでしょう
    もはや「知らない人はいない」と断言していいと思います

    桐蔭学園→早稲田大学とスター街道を進んできた矢崎選手は昨シーズンの大学シーンでも優れたパフォーマンスを見せていました
    U20カテゴリーにも早い段階で参加し、今シーズンは U20よりも日本代表でプレーしていた期間の方が長いという、現在日本で最も優れたBK3であるとの評価も高い同選手について今回は見ていきたいと思います

    目次

    1. 矢崎選手の良さ・持ち味
    2. チェックしていきたいポイント
    3. 今後の展望

    矢崎選手の良さ・持ち味

    様々な良さが挙げられることは想像に難くないですが、個人的には矢崎選手はランニングスキルが突出した存在であるということを特に言及していきたいと思っています

    では矢崎選手のランニングスキルのどの部分が優れているのか

    こういったところはあまり明確に言及しているメディアはあまりないように感じています
    極端な話どの側面をとっても優れているといっても過言ではないので限局した言及が難しいということも考えられますが、今回はそういったところをあえて限局して語ってみたいと思います

    私が矢崎選手のプレーを見て特に優れていると思う部分は、一言で言うと「ランニングコース」にあると思います
    ありがちな部分とも捉えられる部分ではあると思いますが、個人的にはこの部分で他の選手にはない素晴らしさを見せているように感じています

    どのようにランニングコースが優れているかというと、そもそものランニングコースの選択が優れていると言うのは当然であるのですが、矢崎選手は理想のランニングラインに対して自身のランニングフォームを適応させる能力が非常に優れていると感じました
    理想に対して自身の動きをうまくコミットさせることができるといった感じですね

    これはつまり「理想的なコースと実現されたコースのギャップが少ない」と言うことでもあります
    一般的な同ポジションの選手であれば理想的なランニングコースに対して「自分の実現できる最大限のコース」を取ることが多かったり、もしくはコンタクトを含めた力技で打開するシーンを見ることが多いのが現実的なところかと思います

    しかし矢崎選手はその「理想のランニングコース」に対してしなやかなボディコントロールと、体の大きさからは想像できないパワフルな足腰の力で適切なランニングラインをとっているように感じました
    限りなくそのシーンでとりうる正解に近いランニングコースで走ることができているといった感じですね

    矢崎選手はステッパータイプともスプリンタータイプとも明確に分類することができないように感じていて、発展途上ながらハイブリッドタイプということもできるかもしれないと思っています
    ステップを踏んでも上半身のブレが少ないので余計な移動量が不要であり、細かい移動も大きい移動も全身をうまく使うことでこなしているように見えています

    チェックしていきたいポイント

    アタック時のランニングに関してはリーグワンにおいても即戦力になりうる矢崎選手ですが、諸手を挙げて賛同できるほど現状の国際舞台などでプレーできているかというと、正直なところそうではない部分もあるように感じています

    まずランを除いたプレイングの部分です
    矢崎選手の持ち味はダイナミックなランニングによるチャンスメイクや、自身のラインでトライまで取り切るランニングスキルですが、逆にいうとそれ以外の部分では明確に世界レベルであると断言できる点はそう多くはありません

    気になるプレイングとしては例えばパスチョイスの精度とスキルの部分などが挙げられます
    ランニングが目立つ分「パスの精度があればもう一段階チャンスができていたのではないか」というような部分もあったのではないかと思います
    ただ、これはスキルが劣っているというよりかはこれまでプレーしていた大学レベルとの間合いの違いによるものであると思うので、間合いの感覚を磨いていけば十二分に向上が見えてくる領域なのではないかと思っています

    あとはキックゲームへの対応力もより一層求められてくる部分ではないでしょうか
    大学レベルでは正直なところキックゲームのレベル感は高くはなく、エリア取りの部分でもハイボールの競り合いの部分でもある程度対応しやすいところがあったと思います

    しかし、インターナショナルになってくるとこの辺りの精度やいやらしさが一段階以上上がり、特にハイボールの競り合いの部分になると激しさが増してくるような印象を受けています
    矢崎選手もハイボールの競り合いを得意としている印象ですが、若干のびたボールでの取り合いが多く、空中で相手と競り合うシーンが増えた際にどうなるかはまだ明確なビジョンはないのではないかと感じています

    今後の展望

    矢崎選手はPNCのカナダ戦を最後に大学シーンに戻るということが明言されています
    早稲田も菅平ではいいパフォーマンスを残しているので、このまま合流してもかなりいい流れでプレーを活かすことができるでしょう

    一方で「矢崎選手をこのまま大学シーンでプレーさせることが正しいのか」という論調があるのも把握しています
    大学シーンはやはりインターナショナルに比べると格が下がってしまうため、強度やレベル感が下がってしまうことに対する懸念の発露といった感じですね

    個人的には「可能ならできる限りリーグワン以上の強度でプレーする機会を設ける」というのが必要ではないかと感じています
    やはり育成や強化というのは「自分が心地よくプレーできない強度」で行っていくことが大事であると思っており、春シーズンなどの試合を見た限りでは矢崎選手には少し伸び伸び出来すぎる試合も増えてくるのではないでしょうか

    もちろん将来性の部分やセカンドキャリアといった部分で日本のラグビー環境において大学に在籍する意味というのはあると思います
    ラグビーだけで生きていけるわけではないと思うので、それ以外の要素も踏まえたキャリア形成が必要というわけですね
    一方で、より上のレベルで活躍できる才能が大学のラグビー部でプレーし続けることの意味に関しては一考する余地はあるのではないかと思っています

    この点に関しては様々な立場の人の様々な意見があり、様々なステークホルダーの考え方もあると思うので一概にこうすべきといった対応は難しいかもしれません
    ただ、「誰のために環境はあるべきか」といったところは議論になってもいいのかもしれない、と感じました

    今回は以上になります
    それではまた!