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  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:天理大学対京都産業大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:天理大学対京都産業大学

    いざ大学選手権へ!関西大学ラグビーAリーグ最終節、全勝対決を徹底分析

    2025年11月30日(日)、関西大学ラグビーAリーグの最終節は、ともに無敗で迎えた京都産業大学天理大学全勝対決となりました。勝った方がリーグ優勝という、まさに大一番。緊迫した戦いの末、王座を掴んだのは天理大学でした。

    最終スコア47-15。天理大が強靭なフィジカルと卓越したエリアマネジメントで勝利を収めたこの熱戦を、徹底的に分析します。

    試合展開:前半は天理大の決定力が光る、後半は京産大が意地を見せるも及ばず

    前半:天理大の「一発で取り切る」破壊力

    先手を取ったのは天理大。10番を軸としたワイドな攻撃シェイプに対し、前がかりになった京産大ディフェンスのギャップを突き、SH朝倉達弥選手が走って先制トライを奪います。対する京産大も、9シェイプからショートサイドを攻め、天理大のディフェンスミスを誘発しました。10シェイプから巧みに防御ラインをずらし、FWのラインブレイクからNO8シオネ・ポルテレ選手に繋いでトライを返します。

    前半の入りは、互いに敵陣22mラインに侵入すれば、「一発でトライを取り切る」決定力の高い展開となりました。天理大はペナルティーからのラインアウトモールで追加点を挙げ、さらに1-3-3-1ポッドを軸にエッジの選手が柔軟に入れ替わるスタイルでアタックを継続。主に10シェイプでFWがキャリーし、強烈なドライブと要所でのスイベルパスを使い外までボールを運んでいました。

    京産大ディフェンスは押し込まれながらも、ブレイクダウンへの絡みと、外側でのナブラギ・エロニ選手の粘り強いディフェンスでターンオーバーを奪う場面もありました。しかし、天理大の敵陣22m内での決定力とFWの強さが目立ち、前半は21-8で天理大リードで折り返します。

    後半:天理大の支配的な展開

    後半開始直後、天理大は相手のキックミスからエリアを取り、得意のラインアウトモールで押し込んですぐにリードを広げます。

    京産大は、ポルテレ選手やLOの石橋チューカ選手といったキーマンをショートサイドに配置して崩しにかかるも、天理大の外側のディフェンスの素早い上がりに阻まれ、なかなか崩しきれません。ラインアウトの獲得にはノージャンプを取り入れるなど修正を見せますが、ゴール前での天理大の強固なディフェンスにトライを阻まれ続けます。

    天理大は、大学屈指のSOである上ノ坊駿介選手のパスとキックを軸としたエリアマネジメントが冴え、50-22キックキックパスを成功させるなど、キックで前進を続けます。鋭いタックル精度と素早いディフェンスセットアップで支配的な展開を続け、京産大のミスを誘発しました。アタックではシンプルな9シェイプでもトライを取り切る強さを見せつけました。

    京産大は、後半の中でも終盤、バックドアを経由して外側へボールを供給する形に修正し、エッジからエッジへとボールを運ぶ見事なトライへ繋げました。修正力の高さを見せましたが、前半の失点とラインアウト獲得の苦戦が響き、リードを覆すには至りませんでした。


    京都産業大学

    【今シーズンの京都産業:伝統のFWと充実のバックス】

    京産大は今シーズンもここまで全勝で、リーグ最終戦に臨みました。チームの根幹を成すのは、伝統のラインアウトモールとスクラムを軸とした強固なFW陣です。平均体重100kgを超える重量級のパックは、セットプレーでの優位性を確保し、試合の流れを掴む最大の武器です。

    ディフェンスにおいては、ブレイクダウンの接点で激しくボールへと絡み、ターンオーバーやペナルティーを誘発し、ディフェンスからアタックへの流れに乗るスタイルを徹底しています。さらに、バックスには、春から好調のCTB奈須貴大選手や、しなやかなランニング能力に長けるWTBナブラギエロニ選手といったフィニッシャーが揃い、攻撃の選択肢は多岐にわたります。試合前のコメントからも、この一戦にかける並々ならぬ想いが強く伝わってきました。

    京産大のアタック:ショートサイドへのこだわりと後半の修正力

    京産大のアタックは、「ショートサイドを意図的に攻める」という狙いが明確でした。広いサイドへの仕掛けよりも、狭いサイドでの数的・質的優位を狙い、天理大ディフェンスのノミネートミスを誘おうと試みました。特にポルテレ選手や石橋選手といった強力なランナーをショートサイドに配置し、起点を作る意識が高かったです。

    後半、天理大の前に出るディフェンスに苦戦する中で見せた、バックドアへ直接経由し、外側へボールを運ぶスタイルは、高い修正力と判断力を示しました。必要以上にパスを増やさず、FWは縦のダミーランに留め、その裏のバックドアへ供給する形は、相手をうまく攻略できていたと言えます。このエッジからエッジへの展開からトライを獲得したシーンは、今後の大学選手権に向けた大きな収穫と言えます。

    一方で、ラインアウト獲得に苦戦した点は大きな課題となりました。具体的な数値としては59%(10/17)と、天理大学にスティールされる場面も含めて不安定な攻撃起点となっていました。特にゴール前でのラインアウトの不安定さが、決定機を逃す要因となりました。また、天理大の前に出るディフェンスに対して、ハンドリングエラーやパスコースの不足からミスをする場面も見受けられました。

    京産大のディフェンス:ブレイクダウンへの圧力とコリジョンの課題

    京産大のディフェンスは、個々の選手がテイクダウンを取るタックル精度は悪くありませんでした。押し込まれながらも、ブレイクダウンには絡み続ける圧力をかけ、外側ではエロニ選手のディフェンスでターンオーバーを奪うなど、粘りを見せました。

    しかし、天理大の強力なFWキャリーとブレイクダウンの強さに対し、ドミネートされる場面が続き、ディフェンスラインが後手に回ってしまう展開が目立ちました。特にコリジョンの部分で差し込まれるフェーズが多く、ゲインを許しがちになり、苦杯をなめる原因となりました。自陣側ではポゼッションではなく、テリトリー優先でロングキック中心の選択をし、ラインアウトのクイックスタートを多用するなど、工夫も見せていました。


    天理大学

    【今シーズンの天理大学:圧倒的なディフェンスとSO上ノ坊の統率力】

    今シーズンの天理大は、その圧倒的なディフェンス力が特筆すべきポイントです。関西リーグでここまで失点はわずか「55」、1試合あたり「11」失点という数字は全国トップクラスの堅守を物語っています。特に自陣22mに入られてからのモールディフェンスとFWによる近場のディフェンスは鉄壁で、1人1人のコンタクト強度がもう一段階ギアが上がる印象を受けます。

    その一方で、得点力も合計315得点と関西リーグで圧倒的なスコア力を誇り、攻守ともに盤石の状況が伺えます。これを支えるのは、キャプテンであるSO上ノ坊選手です。ランニング、キック、パスの全てを高いレベルで使いこなし、試合展開や時間帯によって自分の色の出し方を巧みに操る統率力でチームを牽引しています。加えて、FW陣の重量と機動力が今年も健在であり、穴のないチームを作り上げています。

    天理大のアタック:圧倒的な継続率とエリアマネジメント

    天理大のアタックは、「圧倒的なブレイクダウンの強さ」「高い継続率」が今年の最大の武器であることを証明しました。10シェイプを中心にFWがタックルを食いながらもドライブし、1人でもボールプロテクトできるブレイクダウンの強さによって、ターンオーバーされないポゼッション力を誇りました。

    1-3-3-1の配置を軸にエッジの選手が柔軟に変わるスタイルで広範囲を使い、アタックリサイクルも精度とスピードが早く、外側に次々とチャンスを創出しました。特にゴール前では、11人モールを披露するなど、FWの強さを最大限に生かした決定力は驚異的です。

    また、この日のSO上ノ坊選手はランニングよりもパスとキックを軸にゲームメイクしており効果的なエリアマネジメントでチームを前進させています。合わせて、50-22キックやキックパスといった高い足技のスキルで魅了しました。エッジのFLアリスター・サウララ選手効果的なオフロードパスも、アタック優勢に大きく貢献しました。

    加えて、敵陣22mに入ってからのアタックでは、ほとんどアタックオプションを封印し、戦術的な駆け引きは見られませんでした。あくまで個人的にですが、大学選手権へ見据えての布石ですらあるように感じました。 

    天理大のディフェンス:ダブルタックル意識と支配的なプレッシャー

    天理大のディフェンスは、非常に支配的でした。ダブルタックルの意識が高く、鋭く前に出ることで、京産大のモメンタムを寸断しました。特にミドルゾーンのプレッシャーに比重を置き、外側をある程度捨てることで、京産大にモメンタムを作らせない狙いが明確でした。

    一人一人のタックル精度とディフェンスのセットアップが早く、ほとんど後手に回ることがありませんでした。詰め切るディフェンスが有効に機能することで京産大のハンドリングエラーやミスを誘発。さらには、ハイパントからのラッシュとターンオーバーを引き起こすなど、守備から攻撃への切り替えも機能していました。

    ラインアウトディフェンスからもプレッシャーをかける狙いを持っており、自陣22m内ではハイパントではなく、ロングキックによるタッチキックを選択するなど、状況に応じた賢い判断も見られました。


    まとめ:天理大が示した王者の貫禄、京産大は修正力に期待

    全勝対決を制し、関西リーグ王座に輝いた天理大学は、アタックにおける圧倒的なブレイクダウンと継続率、SO上ノ坊選手を中心とした巧みなエリアマネジメント、そして決定力の高いバックスリー陣という、盤石の強さを見せつけました。後半終盤まで持続した鋭いディフェンスを武器に、大学選手権へ突き進みます。

    敗れた京都産業大学は、ラインアウト獲得の不安定さと、ディフェンスにおけるコリジョンで差し込まれるフェーズの多さが響きました。しかし、ラインアウトモールでの強さや、後半に見せたエッジからエッジの攻撃を含むアタックマネジメントの修正力は、今後の全国での戦いに大きな期待を抱かせます。

    両チームともに、この激戦を経て、関西の代表として「日本一」という目標に向かい、大学選手権へ挑みます。

    では。

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:早稲田大学対慶應義塾大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:早稲田大学対慶應義塾大学

    伝統の早慶戦、早大の超速ブレイクダウンが勝利を呼んだ!慶應義塾との緻密な戦術戦

    2025年11月23日、ラグビー関東大学対抗戦のクライマックスを飾る伝統の一戦、第102回早慶戦が、熱気溢れる秩父宮ラグビー場にて開催されました。会場には1万5164人の観衆が集結し、両校の意地とプライドが激しくぶつかり合う舞台を見守りました。結果は、対抗戦首位を走る早稲田大学が慶應義塾大学を49-21というスコアで下し、勝ち点を「32」まで積み上げ、首位を確固たるものとする圧巻の勝利を収めました。

    しかし、このスコアの裏側には、両校が練り上げた戦術システムが高度に交錯する、戦術的な深みのある攻防が展開されていました。早稲田の「1421」ポッドに代表される流動的かつ多角的なアタックと、慶應の「1331」を起点とした継続アタックの応酬は、現代ラグビーのトレンドを象徴するものでした。本記事では、この激闘を詳細な戦況分析、アタック戦略、ディフェンス戦術、そしてデータ分析の各側面から解説します。

    試合展開:互いに譲らないポゼッションラグビーと早大の爆発力

    試合はキックオフ直後から、早稲田が準備してきた多様なアタックオプションを惜しみなく披露し、主導権を握る展開となりました。

    早稲田は、敵陣に入るとすぐにFWが縦に突き刺さる「3311」のポッドを起点に慶應ディフェンスを崩しにかかります。センターを中心とした縦への強いアタックと、それをサポートする9番を起点としたボールムーブメントが機能し、瞬く間に優位な状況を作りました。そして、早々にスクラムでのペナルティーを獲得すると、このチャンスを逃さずラインアウトモールを押し込み、HO清水健伸選手がこの日最初のトライを奪います。

    清水選手は、このモールアタックの猛威を体現するかのように、前半だけで立て続けにトライを重ね、最終的にこの日4トライという驚異的な決定力を発揮し、勝利の立役者となりました。

    早稲田は中盤左ラインアウトからの右オープン攻撃では、日本代表のFB矢崎由高選手が相手ディフェンスラインを切り裂くダイナミックなランで大幅ゲイン。この流れるようなアタックから、NO8粟飯原謙選手CTB福島秀法選手との巧みなパス交換を経て、粟飯原選手がトライを奪うなど、キープレーヤーが躍動し、早稲田の攻撃に勢いをつけました。

    対する慶應義塾も、ただ守るだけでなく、戦術的な深さを見せます。ターンオーバーから数フェーズ動かした後、10番小林祐貴選手からのハイパントキックで陣地を挽回し、再獲得する場面もありました。しかし、モールからアタックを仕掛けるも、サポートの遅れから早稲田のジャッカルを許すなど、再三トライチャンスを逃しました。このブレイクダウンの攻防こそが、試合の主導権を握る上で大きな差となりました。

    試合中盤、早稲田の13番福島選手は、大学トップクラスと評されるオフロードパスで慶應ディフェンスを切り裂きます。右サイドでの広いレンジでのギャップを突いたオフロード、そして直後のフェーズでの左サイドでのアシストは、福島選手の突出した突破力と視野の広さを証明しました。

    一方、慶應は9番橋本弾介選手のロングパスから、内側のディフェンスを切り崩す効果的なアタックを展開。橋本選手と12番今野椋平選手が接近して相手を引きつけ、ギャップを創出するサインプレーを繰り返し成功させ、同じ形からトライを奪うなど、サインプレーの精度と遂行力の高さを見せつけました。

    早稲田は前半終了間際にも、ラインアウトからのサインプレーで清水選手がこの日3本目となるトライを奪い、35-7で前半を折り返しました。後半も主導権の奪い合いは続きます。慶應も意地を見せ、ラインアウトモールからワンチャンスで追加点を挙げるなど奮闘しますが、早稲田の猛攻を最後まで止めることはできず。最終的に早稲田が2トライを追加し、49-21でノーサイドを迎えました。


    早稲田のアタック:多角的なポッドシステムと超速ブレイクダウン

    早稲田のアタックは、複数のポッドを効果的に使い分ける多層的なシェイプによって、慶應義塾ディフェンスを攻略しました。
    早稲田のアタック戦略の中核を担ったのが、流動的な「1421」のポッドシステムでした。

    • 司令塔の移動とアタックの流動化: 試合中盤、早稲田が中盤から展開した際には、FB矢崎選手がサイドライン際からミドルエリアへ移動してくるという戦術的な動きが見られました。この動きにより、アタックの起点が流動的になり、ディフェンスは早稲田の攻撃の「狙い」を掴むことが極めて困難になりました。
    • ミドル4人ポッドの優位性: 試合を通じて、このポッドを使い続け、特に4枚並ぶFWが効果的に機能していました。ラックから2番目あるいは3番目の選手が1stレシーバーになるオプションをもち、さらに両サイドにティップパスを繰り出すこと、あるいはスイベルパスでBKへ供給するなど、複数オプションを高精度で持ち続けました。その結果、慶應ディフェンスはキャリアを絞り切れない状態に陥りました。この構造的な優位性が、継続的なゲインを可能にしました。また、ショートサイドのシーケンスを巧みに使いながらゲインを重ねるなど、エリアに応じたポッドの運用が完璧でした。
    • 超速のブレイクダウン: このポッドアタックを成功させた最大の要因は、ブレイクダウンのリサイクルの速さです。超速でボールを捌くことで、慶應ディフェンスが整うわずかな時間すら与えず、常にアタック側の優位性を維持し続けました。

    チームの戦術的自由度と個の突出

    • 服部選手の戦術的自由度: SO服部亮太選手は、FWの裏側に位置したり、逆サイドから移動してくるためディフェンスとしては掴みづらい展開を作り出しました。ブラインドサイドでのシーケンスでは、WTB田中健想選手がファーストレシーバーに入り、FWの縦ランに対して裏のBKへパスするシーンや、ラックサイドをSHから受けて攻撃するシーンなどその戦術的な自由度を見せてくれました。
    • 後半の戦術調整: 後半、早稲田は明らかに意図して10シェイプを増やしましたが、序盤はエッジでスペースが狭くなりあまり有効なアタックではなかったという反省点もあげられます。しかし、すぐに折り返しの9シェイプのティップパスで大きくブレイクするなど、修正能力の高さも見せつけました。
    • 福島選手の突破力: 13番福島選手の個人能力は群を抜いており、広いレンジでのギャップを突いたオフロードパスや、「行き詰まったところでも前へ持っていける力」を発揮し、早稲田アタックの大きな推進力となりました。

    慶應義塾のアタック:継続重視のポッドとフルバックの役割

    慶應義塾は、早稲田の高速アタックに対して、フィジカルを前面に出した継続重視のポッドシステムと、粘り強いディフェンスで対抗しました。
    慶應のアタックは、一発のゲインよりも継続性ポゼッションを重視する設計となっていました。

    • 細かいポッドでの継続: 慶應の基本的なアタックは、「ポッドを細かく当てながら継続する」印象を受けました。これにより、ラックサイドのフィジカル勝負で優位に立ち、ディフェンスを徐々に消耗させることを狙いました。
    • 13211の形での展開: およそ4〜5フェーズを重ねた段階で、「13211の形から10シェイプ起点に外まで運ぶ形」が見られました。これは、FWで中央を固めた後、バックスとのバックドアオプションを組み合わせてワイドに展開し、フィニッシュを狙うという、緻密に練られたシェイプです。
    • FB田村選手の柔軟な役割: FB田村優太郎選手は、前半は比較的内側でコントロールするタイプとして機能しましたが、後半には「外側でゲインを切ったり、外側へ運ぶ役割も担っていました。状況に応じて役割を柔軟に変化させました。

    ただ、試合を通じてブレイクダウンが安定せず、出したい場面でボールに絡まれてしまい、ターンオーバーされてしまったことは今後の課題と言えるでしょう。

    慶應義塾のディフェンス:バックスの粘りとブレイクダウンの圧力

    慶應義塾のディフェンスは、個々のタックル精度粘り強さが際立っていました。

    • タックル精度: 慶應義塾のディフェンスは、タックル精度とテイクダウンを取り切る部分は申し分ないレベルであり、特にCTB安西良太郎選手(1年)がモストインプレッシブプレーヤー(MIP)に選出されるなど、タックルの強度と粘りは際立っていました。早稲田の猛攻に対しても、「完全なブレイクは許さず粘りでタックルからミスを誘う」我慢強さがありました。
    • ブレイクダウンの課題: 一方で、早稲田の高速ブレイクダウンに対しては、プレッシャーをうまくかけられず、テンポを遅らせることができなかった。という課題を残しました。このブレイクダウンでのプレッシャーが、早稲田に連続アタックを許し、失点に繋がる大きな要因となりました。

    データから見る:バックライン重視のアタックとセットピースの安定 

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    この早慶戦は、両チームが明確な戦術的特徴と高い実行力を示した一戦であり、スコア以外のデータからもその傾向が読み取れます。

    1. バックラインへの供給と外側キャリー

    両チームの最も大きな特徴は、現代ラグビーで主流となりつつあるバックラインへのパス供給の多さです。9シェイプが中心のチームも多い中で、10シェイプとバックラインへのパスが多く、外側でのキャリーが多いという点が際立っていました。これは、FWのポッドにボールを当てるだけでなく、より多くのバックスプレーヤーを絡ませ、ディフェンスのワイドな展開力を重視し、高度なポゼッションラグビーが実践されたことを示しています。早稲田が後半に意図して10シェイプを増やしたことも、この傾向を裏付けています。

    2. 安定したセットピースと決定力

    • セットピースの安定性: 両チームとも、安定したセットピースがこの試合のハイテンポな展開を支えました。特に早稲田は、ラインアウトは13/14という高い成功率で攻撃起点を確保。これは、HO清水選手の4トライに繋がったモールや、緻密なサインプレーの基盤となり、今後の大学選手権でこの安定性をキープできるかが鍵となります。
    • 早稲田の決定力とスコアバランス: 早稲田は22メートル決定率も58%と好調でした。ミスして取りきれない場面もありましたが、すぐさま侵入しスコアまで持っていける力は健在であり、モールの強さ、ポゼッションからの連続攻撃、そしてスクラムでの優位性と、様々なスコアバランスを持っていることは、大きな脅威をなっていました。
    • 慶應義塾のスコア力: 慶應義塾に関しても、モールやラインアウト起点でスコアへ繋げるシーンがあり、スコア力は十分上位校に劣らないことが分かりました。これは、慶應のFWの強さと、セットプレー周りのサインプレーの精度が高いことを示しています。

    3. キックゲームの展開

    この試合は、キックが少なかったため、ボールがよく動き互いのポゼッションラグビーがかいまみえた試合展開となりました。

    • 早稲田のポゼッション重視: 早稲田はハイパントを使わず最低限のロングキックに留め、中盤からポゼッションを重視する戦略を採用しました。
    • 慶應義塾の戦術的キック: 慶應は自陣深くはロングキックを使いながらも、中盤はアタックが詰まったところでオープンハイパント、ボックスハイパントを使い分けプレッシャーをかけていたことが分かります。これは、早稲田のポゼッションアタックに対する、「陣地回復」「プレッシャー」を狙った緻密な駆け引きであり、キックの意図が明確な質の高いゲームとなりました。

    まとめ:戦術の差異が結んだ大差と大学選手権への課題

    この日の早慶戦、最終スコア49-21という結果は、早稲田の「1421」ポッドに代表される多角的なアタックシェイプと、それを可能にした超速のブレイクダウンが、慶應義塾の「1331」を軸とした継続アタック粘り強いディフェンスを上回ったことを示しました。

    早稲田は、HO清水選手の4トライに象徴されるセットプレーからの決定力と、福島選手の突出した突破力、そして野中健吾主将のリーダーシップが融合し、対抗戦首位にふさわしい総合力を証明しました。データからも裏付けられたバックラインへの多様な供給安定したセットピースは、早稲田の強固な基盤を示しています。今後の戦いに注目です。

    慶應義塾も、戦術的な準備と個々のフィジカルの強さを見せつけましたが、ブレイクダウンのスピードという現代ラグビーの生命線で早稲田に一日の長がありました。しかし、モールやラインアウトからスコアに繋げる力は上位校に劣らず、大学選手権に向けた大きな自信となるはずです。

    伝統の一戦で得た経験と課題を糧に、両チームとも大学日本一を目指す最終調整へと進んでいくことになります。この激闘が、今後の大学ラグビー界の行方を占う重要な一戦であったことは間違いありません。

    では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:京都産業大学対関西学院大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:京都産業大学対関西学院大学

    全勝の京産大が試練を突破! 関学のアタックの決定力と粘り!

    いよいよ大学ラグビーシーズンは佳境を迎え、各リーグで熱戦が繰り広げられています。今回は、関西大学Aリーグにおける注目の一戦、全勝を維持する京都産業大学と、4勝1敗で3位に付ける関西学院大学の対戦をレポートします。

    肌寒さが増す中、会場は熱気に包まれ、両チームのプライドがぶつかり合いました。試合の焦点は、やはり京産大の強力なフォワード(FW)陣に、関学大FWがどこまで対抗できるか。そして、関学大の誇る展開力と決定力のあるバックス(BK)陣が、京産大の堅守を破り切れるかに集まりました。

    試合展開:京都産業、リードを許すもセットプレーで逆転

    序盤は京産大がポゼッションとテリトリーを握る展開となりましたが、両チームともにミスやペナルティーが重なり、試合は断続的になりました。ペナルティーの数は両チーム合わせて「33」と規律面での課題はみられました。
    前半、京産大はBKで1本、得意のモールで1本のトライを奪いましたが、対する関学大もモールで2本のトライを奪い返し、12-12の同点で折り返す、手に汗握る展開となりました。

    後半に入ると、関学大が相手のミスから機を掴み、スコアを奪って一時リードします。しかし、京産大はここから真骨頂を発揮しました。10番吉本 大悟選手と9番髙木 城治選手の正確なキックを駆使してエリアを回復し、強力なスクラムからのペナルティー獲得、そしてモールでのトライで得点を重ね、逆転に成功しました。終盤まで関学大は粘りを見せましたが、京産大がリードを守り抜き、28-22で勝利を収め、全勝を堅持しました。


    京都産業大学のアタック:9シェイプを軸とした多角的なアプローチ

    京産大のアタックスタイルは、FWを効率よく配置する「3-3-1-1」「3-3-2」のポッドを基調としていました。特筆すべきは、逆目(ブラインドサイド)への10番選手のランを起点に、ディフェンスのエッジ(外側)を崩そうとする明確な狙いが見られた点です。

    • エッジへの工夫: 普段13番を担うことの多いナブラギ・エロニ選手をウイングに配置するなど、決定力を高める工夫が見られました。また、「3-3-1-1」のポッド配置を用い、エッジに6番石橋チューカ選手5番石川 東樹選手といった強力なFWを配置し、攻略を試みました。
    • シングルラインのブレイク: 最近主流のダブルラインではなく、FW-BK-FWのシングルラインでパスを繋ぎ、走り切れるバックローの能力を活かしたアタックが、最初のトライに繋がりました。
    • ミドルゾーンの苦戦: しかし、1本目のトライ以降はエッジの攻略に苦戦しました。これは、ミドルゾーンにおけるFWのキャリーが前にあまり出られず、有効な状態でエッジに運べなかったことで、関学大の対応を許し、外側へのパスが浮くなどのミスからターンオーバーを招く場面が散見されました。
    • セットプレーの決定力: スコアの多くは、苦戦したラインアウトに代わり、スクラムからのペナルティー獲得(PG)と、モールが占めました。敵陣深くへ侵入さえすれば、そのセットプレーの威力は圧倒的であり、勝利の大きな要因となりました。

    後半からの戦術転換として、キックの多用が成功しました。特にハイパントと、ディフェンスラインの背後を狙うチップキックやグラバーキックが効果的でした。キッカーである10番吉本選手の精度はもとより、バックスラインの洗練されたキックチェイスが功を奏し、狙いを持ってエリアを支配しました。自陣からハイパントを使い、ボールの再獲得に成功していたことは大きな影響力を持っていました。また、前半から後半にかけて軸を変えながら試合を進められる力は今年の大きな強みだと言えます。


    京都産業大学のディフェンス:速いラインスピードと重いブレイクダウン

    京産大のディフェンスは、全ての接点において圧力をかけることを重視し、ラインスピードの速さが光りました。

    • 個々のタックル精度: 個々のタックル精度が高く、タックル後のラックファイトでも押し返す意識が非常に強かったと言えます。
    • ミドルゾーンの封鎖: 外側へのボール展開を許すシーンが少なく、12番那須選手の的確なボールタックルなどでピンチを未然に防ぎ、ミドルゾーンを効果的に閉ざすことができました。

    ただ、課題点としてペナルティーの多さが目立ちました。タックルの高さやオフサイドなど、規律の面で反則が重なり、自ら勢いを止めてしまう時間帯があり、苦戦の要因となりました。


    関西学院大学のアタック:10シェイプとモールの決定力

    関学大のアタックスタイルは「1-3-3-1」を基本としながら、1年生SO新井 竜之介選手を起点とした「10シェイプ」を中心に組み立てられました。

    • 展開ラグビー: ポッドで細かく当てにいくより、深めのパスを介してバックドアを使ってエッジまでボールを動かすスタイルで、ボールを早く散らすことで前進を図りました。
    • ターンオーバー後の縦への意識: ボールポゼッションする時間は京産大に比べて少なかったものの、ターンオーバー後は横だけでなく縦へのキックを効果的に使用し、エリアとチャンスメイクを狙いました。
    • モールの脅威: この試合で最大の武器となったのがモールです。ゴール前では「オール面」「6面」など様々な形でボールを獲得し、強力な京産大FW相手にも押し込み、2本のトライに繋げました。アタック継続が難しい状況でも、ディフェンスでのペナルティー獲得から敵陣に入り、モールでトライを取り切る展開は、関学大の大きな収穫となりました。

    関西学院大学のディフェンス:ミドルゾーンでの健闘とエッジの課題

    関学大のディフェンスは、ミドルゾーンにおいて京産大のポッドアタックに対して十分に渡り合っていました。

    • ミッドフィールドの圧力: 京産大のポッドが狙いを絞りやすかったこともあり、個々のタックラーが前に出てしっかりと仕留めていました。特に4番池辺 康太郎選手5番梁瀬 将斗選手はミッドフィールドにタイトに立ち続け、3番大塚 壮二郎選手もハードなタックルを連発し、京産大の勢いを寸断しました。
    • エッジの課題: 一方で、エッジ(外側)のディフェンスには課題が残りました。ラックチェイスやボールウォッチのミスから間合いをずらされ、ブレイクや有効なゲインを許すシーンが見られました。頭越しのブリッジパスに対してはスライドで対応できていましたが、鋭いカットパスや、シングルラインで押し込んでくるアタックに対しては後手に回り、ミドルゾーンでのノミネートミスからギャップを生み出し、トライを献上する結果となりました。

    データで見る分岐点:決定率とキック戦略

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    試合結果を左右したデータを分析すると、興味深い傾向が見て取れます。

    両チーム合計でペナルティーが33と多かったこともあり、ラインアウト機会が多発しましたが、京産大が22回で72%、関学大が16回で69%と、両チームとも獲得率が上がり切りませんでした。この「攻撃権の移り変わりやすさ」が試合をぶつ切りにした象徴と言えます。

    次に22mライン侵入回数を見ると、京産大が13回に対し、関学大は5回と大きな差が出ました。しかし、トライ数は互いに3本であり、トライ効率(22m決定率)は関学大が京産大を大きく上回る結果となりました。京産大はPGを選択する場面もあったため一概には言えませんが、アタックの決定率の低さが浮き彫りになりました。

    アタックシェイプの対比として、京産大の9シェイプ主体の近場と安定した攻撃に対し、関学大は10シェイプとバックスボールを軸とした外側へのチャンスメイク、そしてターンオーバーからの素早い動きを特徴としていました。

    キックタイプでは、関学大のロングキックに対して、京産大はハイパントを多用する構図が見えました。特に後半、京産大はハイパントとチップキックを駆使し、キックチェイスによるプレッシャーでディフェンスラインを押し上げ、試合を有利に進めることに成功しました。


    まとめ:セットプレーとエリア戦略が勝敗を分けた激戦

    総じて、ペナルティーが非常に多い試合となり、試合のテンポが失われがちな展開となりました。その中で、いかにペナルティーをスコアに繋げられたかが勝敗の大きな要因となりました。

    京産大は、アタック継続に課題を残しつつも、後半のキックによるエリアマネジメントの成功と、モール・スクラムというFWの絶対的な武器で着実にスコアを重ね、逆転勝利を収めました。関学大は、少ないチャンスを活かした高いトライ効率モールの強さで全勝チームをギリギリまで追い詰めたことは大きな収穫であり、大学選手権に向けて自信となるでしょう。

    京産大は次戦、同じく全勝の天理大学との大一番を迎えます。この激闘を乗り越えた経験は、必ずや次戦に活かされるはずです。両チームの今後の活躍に期待が高まります。

    では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:明治大学対慶應義塾大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:明治大学対慶應義塾大学

    激闘、伝統の100回目「慶明戦」極限の攻防、明暗を分けた一瞬

    歴史と伝統が交錯する「慶明戦」は、この日、通算100回目の節目を迎えた。3勝1敗で並び、大学選手権を見据える両雄のプライドが激突した一戦は、極限の緊張感と責任感が渦巻く、まさに「勝負」のドラマとなった。最終スコア24-22で明治大学が勝利を収めたが、その幕切れはあまりにも劇的だった。

    試合展開:明治の戦略的支配、慶應の驚異的な「粘り」と、運命を分けた幕切れ

    試合は序盤から激しい攻防となった。開始10分過ぎ、明治はゴール前のラインアウトから、HO西野帆平選手の抜け出しで先制トライ。しかし、慶應もすぐさま反撃し、ラインアウトからのサインプレーでルーキーFL申驥世選手がトライを返し、同点に追いつく。

    前半、ポゼッションを握った明治は、CTB伊藤龍之介選手を中心にバックス陣が仕掛け、スコアを重ねてリードを奪う。対する慶應は、CTB小舘太進選手・WTB江頭駿選手による狙い澄ましたタックルで明治のアタックを寸断。いぶし銀の活躍で、猛攻を凌いだ。

    後半に入ると、流れは一気に慶應義塾へ傾く。後半頭から投入されたFB小野澤謙真選手(23番)が躍動。しなやかなボディバランスを駆使したランニングでブレイクを連発。その勢いを受け、SH橋本弾介選手、そしてキャプテンのCTB今野椋平選手が連続トライを決め、一気に同点に追いつく。さらに、逆転のペナルティーゴールを成功させ、慶應がリードを奪い明治を追い詰めた。

    対する明治も、ゴール前ではFWの猛攻から最後はバックス陣が走り込みスコア。一進一退の攻防は、残り数分まで続いた。

    試合のハイライトは、終盤72分からのおよそ3分間にわたる明治の連続攻撃だった。慶應はゴール前で25フェーズにも及ぶFWのピック攻撃を粘り強く凌ぎきり、ターンオーバーを達成。最後の逆転への望みをかけ、自陣からアタックを仕掛けた。

    しかし、その最終局面。慶應のキャプテン今野選手が、スコアを勘違いし、ボールを蹴り出してしまうという劇的な試合終了。ノーサイドの笛が鳴り響き、会場はざわめきと共に幕切れとなった。2点差という僅差で、明治大学が伝統の一戦を制した。

    明治大学のアタック:ワールドワイドなポッド戦術と課題

    明治大学のアタックは、ワールドトレンドを随所に反映させた高い戦術を誇示しながらも、決定的な局面での意思疎通という部分に課題を残しました。
    自陣からハーフラインにかけて展開されたのは、ミドルポッドでFWを4枚並べる1-4-2-1というポッドでした。このフォーメーションの意図は極めて戦略的です。4枚並ぶことで、ディフェンスのターゲットを分散させ、シェイプ全体への的を絞らせないことに主眼が置かれています。さらに、ポッド内の3番目のFWがパスを受け、その裏に隠れたスタンドオフへスイベルパスでボールを供給することで、SOがプレッシャーを受けにくくする狙いがありました。

    これは、先日11月1日の「日本 vs 南アフリカ戦」で南アフリカが採用したのと同様の高度な戦術であり、ディフェンスを内側に意識させることで、SOに外側への展開における自由な判断広いアタックレンジをもたらすことを狙ったものです。FWのポジショニングやハンドリングスキル、外側のブレイクダウンスキルを高く要する戦術ですが、明確に狙いを持ってアタックしていました。

    ハーフラインから敵陣22mにかけては、ベーシックな1-3-3-1を並行して使用しました。その中でも、ハーフが持ち出し、ラック裏のFWが回り込んでスペースにキャリーする動きや、ポッド内で外側に位置するFWが鋭角に走り、その裏を別のFWがアウトサイドに走るシェイプを意図的に使っていました、ベーシックスタイルの中に工夫された多彩なオプションを駆使していました。
    キックアタックにおいては、前後半を通じて慶應のタイトなディフェンスラインとバックスペースの間の「ポケットエリア」へのアプローチが徹底されており、チップキックやグラバーキックを巧みに使い分け、エリア獲得だけでなく、アタッキングキックとして機能していました。

    しかし、後半終盤の72分から繰り出されたゴール前での連続攻撃は、明治のこだわりが良く感じられるアタックとなりました。約3分間、25フェーズに及ぶFWのピック攻撃は、慶應の強靭なディフェンスに阻まれ、結果的にターンオーバーを許してしまいました。モールを起点としたピールオフなど、得点に繋がった場面があった一方で、「FWとして取り切りたい」部分がこの試合で強く感じました。バックスラインでの勝負のタイミングやFWを交えたゴール前のアタックは大学選手権に向けてどう修正していくのか楽しみです。

    明治ディフェンス:インサイド集中とウィングの機動力

    明治大学のディフェンスは、全体としてミドルゾーンに重きを置いた前掛かりな布陣が特徴でした。特にタッチラインから15m外側のエッジと呼ばれるエリアの一部は、リスクを承知で捨て気味であり、中央突破やインサイドへの圧力に焦点を絞った配置だったと分析できます。そのため、慶應がバックドアへのパスから外側に展開しようとする際、一瞬ブリッジパスのような形でエッジの頭上を通される場面が見られました。

    一方で、両WTBの白井瑛人選手・東海隼選手のディフェンスレンジが非常に広いため、エッジの対応を卓越した機動力でカバーし、致命的なゲインを許さない場面が多かったです。キックチェイスの精度も高く、キック後すぐにディフェンスラインを形成し、慶應のカウンターに継続的にプレッシャーをかけることに成功していました。また、ラインアウトの要所でのスティールや相手のミスを誘うなど、セットピースでの守備も光りました。

    しかし、後半に崩された場面としては、慶應が採用したミドルポッドでの10シェイプへのプレッシャーが甘くなったことや、そこからのスイベルパスの部分で、ディフェンスラインの整いと外側とのコミュニケーションにわずかなギャップが生まれ、抜かれるシーンが見られました。前掛かりなディフェンスの特性上、ライン間の連携が一瞬でも乱れると、そのギャップを突かれるリスクが顕在化すると言えます。

    慶應アタック:SO小林祐貴選手の牽引と後半の修正力

    慶應義塾大学のアタックは、SO小林祐貴選手を中心としたバランスの良さと、後半の大胆かつ効果的な修正力が光りました。小林選手はランニング、パス、キックの全てを高いレベルで繰り出し、特にフィットネスが低下しがちな後半でも自ら仕掛けることで、チームのアタックを牽引し続けました。

    慶應は1-3-2-2のシェイプを多用しましたが、特に特徴的だったのは2つ目のミドルポッドの扱い方です。明治が比較的シンプルにFWを入れるのに対し、慶應はここを大きく深いラインで保ち、小林選手からバックスラインの選手へ深いパスを返してから外に展開する形を多用しました。これは、単にFWを当て続けるだけでなく、ボールを大きく動かすことで明治ディフェンスを広げ、エッジ側へ有利なボールを運びたいという明確な意図があったためです。

    前半はポゼッションが持てずアタック機会が少なかったものの、トライを取った場面ではラインアウトからのサインプレーが完璧に決まるなど、勝負どころでの得点力を証明しました。後半に入ると、明治ディフェンスが内側に寄る傾向を的確に突き、広めに立つFWの裏のバックスラインに早いパスを供給し、ギャップを突きました。この流れを決定づけたのが、後半から投入されたFB小野澤謙真選手です。彼の鋭いランニングとブレイクは、キックカウンターから特に威力を発揮し、明治のディフェンスラインを幾度となく混乱させました。このチャンスに乗じ、SH橋本選手やキャプテン今野選手がトライに結びつける決定力も見せつけました。

    慶應ディフェンス:組織的な粘りと「プライド」の体現

    慶應のディフェンスは、粘り強さ組織的なセットアップに優れていました。特に順目のセットアップが非常に良く、ポッド攻撃を多用する明治に対して、ディフェンスラインが常に揃っている印象を与え、継続的なプレッシャーをかけ続けました。

    バックフィールドでは、CTB小舘選手やWTB伊吹央選手が、裏へのキックやエッジへの詰めに対する判断力が素晴らしく、ここぞの場面で明治のアタックを寸断する素晴らしいディフェンスを披露しました。ディフェンスラインとバックフィールドの間のスペースに蹴り込まれるキックに対しても、SHやFBの選手がうまくカバーし、致命傷になる場面は少なかったです。

    このディフェンスのハイライトは、何と言っても終盤72分からのゴール前ディフェンスです。25フェーズにも及ぶ明治のFWピック攻撃に対し、一人ひとりが決して飛び込むことなく、正確な1対1のタックルを精度高く遂行。最後はターンオーバーに持ち込むという、まさに「慶應のプライド」が凝縮された、理想的な守りを見せつけました。一方で、バックフィールドの15m外側のエリアに蹴り込まれるケースが散見され、FB陣のポジショニングには、わずかながら課題を残したと言えるでしょう。

    データから見る:エリア優位と決定力

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    データ面では、両チームの戦術的アプローチと結果が明確に現れました。まず、22mエントリー回数で明治が10回に対し、慶應が6回と、明治がエリア獲得で優位に立ったことが示されています。これは、明治が多様なポッドシェイプとキックアタックで優位なエリアにボールを運ぶことに成功したことを意味します。

    しかし、明治は22mエントリー決定率が約40%(4トライ)に留まっており、優位なエリアへの侵入を確実にスコアに結びつけるという点に課題を残しました。後半終盤のゴール前でのターンオーバーも、この決定力の課題を象徴しています。一方、慶應はエントリー回数は少ないものの、得点に繋がるサインプレーや後半の爆発力を発揮しました。

    セットピースに関しては、明治がラインアウト成功率100%(13/13)という精度を見せ、安定したボール供給源を確保していました。両チームともにキックを多用した点は、エリア獲得や戦術遂行においてキックを重要視する、現代ラグビーの傾向を反映したものと言えます。

    まとめ:成長への糧となる伝統の激闘

    通算100回目という歴史の重みを持ったこの「慶明戦」は、両チームが持てる戦術とプライドをぶつけ合った、まさに一進一退の「素晴らしい試合」となりました。

    明治大学は、先進的なアタックシェイプ安定したセットピースという強みを見せた一方、ゴール前での意思統一決定力向上という明確な課題を得ました。慶應義塾大学は、下級生主体の布陣ながらも粘り強い組織的ディフェンスと、後半の修正力という「粘り」の伝統を体現しました。

    しかし、試合のドラマチックな幕切れは、スポーツにおける一瞬の判断の重さを突きつけられました。この経験は、敗れた慶應にとっては精神的な成長への大きな糧となり、勝った明治にとっても、慢心することなく課題に向き合うための貴重な教訓となったはずです。

    対抗戦はいよいよ後半戦に突入します。この激闘を経た両雄が、大学選手権に向けてどれだけの成長曲線を描くのか、その動向から目が離せません。

    では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:早稲田大学対青山学院大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:早稲田大学対青山学院大学

    「多芸多才」早稲田、盤石の全勝ロード:青学の堅守を上回った「個の力と組織のテンポ」

    今季ここまで全勝と勢いに乗る早稲田大学と、大学選手権出場へ向け負けられない戦いが続く青山学院大学との一戦は、大きな注目を集めました。早稲田はエース矢崎由高選手を欠く布陣でしたが、10番服部亮太選手を司令塔に、FWではHO清水健伸選手を軸とした組織的な戦いが予想されました。対する青山学院は、粘り強いディフェンスを最大の強みとし、SHの利守晴選手を中心とした堅守速攻を企図し、格上撃破への勝機をうかがっていました。

    試合展開:早稲田、驚異の決定力で青学を圧倒。

    試合は、立ち上がりから早稲田が主導権を握り、鋭い出足と接点の圧力で試合の流れを決定づけました。開始早々、早稲田はゲインラインを押し上げるディフェンスから、ラインアウトのターンオーバーを起点にボールを動かし、14番田中健想選手のトライで先制。

    早稲田の圧倒的な圧力に対し、青山学院も敵陣ディフェンスからのターンオーバーを機にモールで一本返す意地を見せましたが、今シーズンの早稲田は個々の能力が非常に高く、自陣側でボールを持っていてもお構いなしにトライへ持っていける「トライレンジの広さ」を誇示しました。

    ポゼッションやテリトリーといった数値では極端な差はなかったものの、早稲田のアタックにおけるトライへの決定率の高さが際立ち、結果として59-12で早稲田が快勝を収める形となりました。

    早稲田のアタック:多芸多才、超速テンポの攻撃

    早稲田のアタックは「多芸多才」という熟語が最も適しており、充実の一言に尽きました。今季の強みである幅の広さが遺憾なく発揮され、特定の戦術に偏重することなくスコアを重ねました。司令塔のSO服部選手に加え、12番CTBの野中健吾選手(キャプテン)が一定のカバーを担うことで、服部選手に自由な選択と意思決定を許容している点が多角的な攻撃の要因だと考えられます。

    トライの起点は、キックカウンターやターンオーバーといったアンストラクチャーな状況から4本、セットプレーや連続攻撃などのストラクチャーな状況から6本(うちモール3本)と、組織的・非組織的の両面で抜け目のない得点力を示しました。特に、外側のチャネル(タッチラインから15メートル内)へのフォーカスが明確でした。さらに、ポッドを飛ばすのではなく、正確にポッドを当てて着実にゲインし、大きく前に出たところでラインを広く取り、外側まで繋ぐ一貫したボール展開が光り、田中選手の決定力も光りました。

    このアタックを支えたのは、今季の大学ラグビーでトップクラスのテンポです。具体的な測定値ではないものの、平均ラックアウトスピードはおよそ2.5秒程度と推測され、リーグワン平均の3.1秒を大きく上回るハイレベルさを誇ります。これは、キャリアのグラウンドワーク、サポートのスイープ力、ハーフのさばく力、次フェーズへのセットスピードが絡み合った結果です。一方で、後半60分以降、ミドルゾーンのFWがスムーズにボールアウトできない、あるいはプレッシャーを受けた際にはミスが生じ、苦しむ場面もあり、今後のハイレベルな試合におけるプレッシャーへの対処が課題として残りました。

    早稲田のディフェンス:先手必勝、接点圧力で圧倒

    早稲田のディフェンスは、キャリアへのファーストコンタクトとインパクトをとにかく意識している点が特徴でした。鋭い出足から強く踏み込み、相手に体を当てることで、ボールへの働きかけやラックへの働きかけといったセカンドアクションを優位に進める形が多く見られました。ダブルタックルは数多くなく、個々が倒しきる理想的な展開が多く、ディフェンスラインを揃え、全体でプレッシャーをかけていました。

    特にミドルゾーンでの接点の凄みは際立っており、青学にボールを持たせることで「アタックさせている」ような状況を作り出し、9シェイプや10シェイプの対面となるFWへの狙い澄ましたタックルが散見されました。ターンオーバーの多くは、少ないフェーズでの絡みやラインアウトからのスティールといったように、狙いを絞ったものでした。

    しかし、後半になると青山学院が狭いサイドを攻撃してくるパターンにゲインを許す場面があり、数的優位を作られていました。加えて、バックラインと大外のスペースが空く場面があり、キックパスで繋げられる場面もあり、連携には若干の課題も見受けられました。

    青山学院のアタック:ショートサイド重視、健闘も及ばず

     戦前から厳しい戦いが予想される中、青山学院のアタックは機会創出と組み立ての点で一定の及第点を与えることができると感じました。攻撃の起点はSH利守選手と後半から出場した小林純岳選手であり、両選手ともに、その積極性とパス捌きが持ち味でした。

    軸としては、広いオープンスペースではなく、ショートサイドに狙いを定めていました。特に13番CTBの内藤基選手はFWも担う選手であり、狭い外側で相手バックスに対して接点を起こし、少しでも前にボールを運びたいという明確な意図が見えました。中盤ではボールポゼッションし、崩したい意図が見られ、プレッシャーを受けながらも、ラストパスが繋がればブレイクを起こすシチュエーションなど、確かにチャンスは作り出していました。

    キックも有効活用しており、ファーストレシーバーを務めるFB井上晴生選手やSO袖山遼平選手からのキックパスといった意図的な戦術も見られました。大学屈指のロングキッカー服部選手にテリトリーで押される場面がありましたが、反対に50-22キックによって大きく挽回するスキルも見せ、空いているスペースへボールを落とす能力を披露しました。ゴール前では、継続できずにミスが発生することもありましたが、トライを奪った場面ではモールが鍵となり、セットプレーを起点とした得点パターンを確立できたことは大きな収穫でした。

    青学のディフェンス:前へ詰める意識、連携に課題

    アタックの個々能力が豊かな早稲田に対して、青学は「前へ間合いを寄せてスペースを奪う」という強い狙いを持ち、強い個に対しては早く刺さるという鉄則を実践しました。しかし、その積極性が裏目に出る形で、横との連携や少しの綻びが、早稲田のハイスピードなアタックによって直接スコアへと繋がれてしまいました。

    特に外側がより前がかりなディフェンスシステムになることで、その内側が追いつけずチェーンが切れてしまう場面がありました。その結果、早稲田大学のランナー達にブレイクを与え、アウトサイドの決定力を許す要因となりました。

    ただし、ディフェンスの全てが綻んでいたわけではありません。No.8角谷銀次朗選手やFLの松崎天晴選手の孤立した一瞬の隙を突く渾身のスティールは、ディフェンスを何度も救いました。また、60分を過ぎたあたりでは、中盤からポゼッションをキープする早稲田のアタックに対して、ミドルポッドへのダブルタックルが有効となり、プレッシャーをかけることができていました。しかし、今回トライを10本許した要因として、自陣から一気に持っていかれるフェーズが多く、バックラインとのコミュニケーションやビッグゲインされた後のセットスピードに課題が残りました。

    データから見る勝負の分岐点

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    まず、最も注目すべきは、両チームの22m決定率です。青山学院大学が10回の敵陣22mエントリーを記録し、早稲田大学の12回と大差ない得点機会を創出できていたにもかかわらず、最終的なスコアは54-12となりました。早稲田は12回の侵入に対して実に10トライを奪っており、その決定率は驚異の約83%に達しましたこれに対し、青学は10回の侵入から1トライしか奪えず、決定率は20%と低迷しました。この「決定力の差」こそが、最終的な大差に直結した最大の要因であり、早稲田の攻撃の効率の良さと、青学のゴール前での精度を示唆しています。

    次に、早稲田のトライの起点を分析すると、キックカウンターやターンオーバーといったアンストラクチャーな状況から4本、セットプレーや連続攻撃によるストラクチャーから6本(うちモール3本)と、組織的なアタックの強さが優勢であり、多角的な攻撃手段を持っていることが裏付けられました。さらに、早稲田は自陣サイドからでもトライを取れるトライレンジの広さを持っており、アタックシェイプもFWへのキャリーが多くなる中でもバックスラインへの供給が多いバランス型であったことも、攻撃の幅の広さを示しています。

    対照的に青山学院は、アタックシェイプで9シェイプを重視し、SHを起点としたショートパス中心のバックスラインでの攻撃意図がうかがえました。また、キック戦術においては、両チームともにハイパントやコンテストキックの使用を控え、ロングキックによるテリトリー取りを軸としていました。敵陣22mエントリー回数の多さを活かせなかった事実は、モールやショートサイドといった得意のパターン以外での得点能力、特にゴール前でのプレッシャー下での取り切る能力に、今後の伸びしろがあると感じます。

    まとめ

    この一戦は、「早稲田の決定力の高さ」と「圧倒的なアタックテンポ」が、青山学院大学の戦術的努力を凌駕した試合でした。

    データが示す最大の着目点は、早稲田の22m決定率83%という驚異的な効率です。青学が敵陣22mエントリー10回という多くの機会を創出しながらも、トライを2本しか奪えなかったこと(決定率20%)と対照的であり、ゴール前でのプレッシャー耐性や精度、判断力が勝敗を分けました。

    早稲田は、日本トップレベルのラックアウトスピードで連続攻撃を仕掛け、ディフェンスラインの連携を断ち切ることに成功。ストラクチャーからのトライ、アンストラクチャーからのトライ共に重ね、完成度の高さを証明しました。また、自陣サイドからでもトライを取れるトライレンジの広さも特筆すべき点です。

    一方、青山学院は、ショートサイドへの明確なアタックプランと、モールや50-22キックといった武器を活かし、一定の成果と多くのチャンスを創出しました。しかし、ディフェンスで個々の力に頼らざるを得ない場面が多く、その綻びを早稲田の「多芸多才」なアタックに見逃されずに突かれた形です。次戦以降、青学はチャンスをトライに結びつけるゴール前での精度向上と、ビッグゲイン後のディフェンスの立て直しが鍵となるでしょう。

    では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:京都産業大学対立命館大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:京都産業大学対立命館大学

    「間合い」と「プラン」の攻防:全勝京産大が粘る立命館を振り切った勝負の分岐点

    この一戦は、全勝で首位を走る京都産業大学と、一勝目が待たれる立命館大学の対戦であり、単なる星の差以上のドラマを予感させるものでした。特に春季リーグ決勝で立命館が京産大を破っている事実は、立命館が「打倒京産」の策を持っていることを示唆しており、試合前から期待感を高めていました。

    試合展開:主導権とスコアの妙

    試合序盤、主導権を握ったのは立命館大学でした。立ち上がりの1stスクラムでペナルティーを獲得し、勢いに乗ると、SHからのボックスキックと、そこに対する「キックチェイス」によってターンオーバーを連発しました。ポゼッションとテリトリーで優位に立ち、試合を京産大サイドで進めることに成功します。立命館が意図した「キッキングゲーム」と「チェイスによるプレッシャー」が完全に機能した時間帯でした。

    しかし、スコア面で優位に立ったのは京都産業大学でした。少ないチャンス、特にターンオーバーからのカウンターアタックにおいて、走力とパワーを兼ね備える大学屈指のNO8シオネ・ポルテレ選手がトライを奪うなど、京産大は「チャンスを的確にスコアに繋げる」決定力の高さを見せつけます。

    その後の試合は、立命館がポゼッションとテリトリーで攻め込み、京産大が粘り強いディフェンスとカウンター、そしてセットプレーからスコアを重ねるという、一進一退の攻防が続きました。立命館はリードを許しても突き放されない粘りを見せ、緊迫した展開が終盤まで続きます。

    試合の行方を決定づけたのは、後半70分を超えたあたりの時間帯でした。京産大が「伝家の宝刀」であるモールでトライを奪い、立命館の抵抗を打ち破ります。このトライで流れを完全に引き寄せた京産大は、その後も連続攻撃とラインブレイクをスコアに繋げ、最終スコア47-19で勝利。スコア以上に立命館の善戦が光るものの、最終的に京産大が勝ち点5を獲得する盤石の試合運びを見せました。


    京都産業大学:劣勢でも勝ち切る「風格」と「間合い」

    ポゼッション、テリトリーで劣勢に立たされながらも勝ち切った京産大の強さは、その「間合い」と「決定力」に集約されます。

    アタック:「自分たちの間合い」の徹底

    京産大のアタックの最大の特長は、テンポの緩急を巧みに操る「自分たちの間合い」を大事にする点です。 スクラムハーフ髙木城治選手は、ブレイクが起こった際には圧倒的なテンポでボールを捌く能力を持ちながらも、中盤や敵陣22m手前では、あえてFWにボールを預け、個々のフィジカルと近場の圧力を活かす「間合い」でボールを運びます。 

    一方で、一度ブレイクが起きると、ギアを一段、二段と上げてボールのテンポを一気に加速させます。このブレイクの起点を担ったのがCTBの奈須 貴大選手です。絶妙な深さからギャップを見つけ、しなやかなランと力強さでディフェンスラインを切り裂くランニングは今シーズンも健在で、京産大アタックの脅威であり続けました。 試合中盤までは繋ぎの部分や連携にわずかなミスも見られましたが、チーム連携が深まることで、さらに加速する可能性を秘めています。

    FWの間合い:「スクラム」と「モール」

    もう一つの「間合い」は、FWのセットプレーにあります。スクラムは5度のペナルティー獲得でアタックの起点となり、その圧力は健在です。 モールは立命館のサックディフェンスに苦戦し、70分まで封じ込められていましたが、試合を決定づけたのはやはりゴール前でのモールでした。ゴール前まで持っていけば「取り切れる」という絶対的な信頼を持つモールと、近場でのFWの圧力は、京産大の強さの根幹であり、今後も注目です。

    ディフェンス:粘り強さと22m内での精度

    ディフェンスは、ラインスピードに重きを置くより、「ブレイクダウン」にこだわったプレーが多く見られました。特に折り返しの10シェイプや9シェイプでは、6番平野龍選手、7番で主将の伊藤森心選手を中心に飛び出し、素早い接点への圧力をかけました。 

    ブレイクダウンでの圧力はターンオーバーを引き起こす場面もありましたが、テンポよく出された際には次のフェーズで遅れを取り、エッジでゲインを許すケースも散見されました。エッジの人数不足はバックスの個人のディフェンスレンジでカバーしている印象を受けますが、課題として残ります。 

    しかし、特筆すべきは22m内でのフィールドディフェンスの精度です。最大16フェーズにも及ぶ粘り強さで耐え抜き、スティールからペナルティーを獲得したプレーは、この試合の京産大の「我慢強さ」を象徴するものでした。


    立命館大学:「プランアタック」と「キッキングゲーム」の巧みさ

    全敗ながら、立命館大学は試合全体を通して理想的なアタックとキッキングテリトリーを獲得し、京都産業大学を苦しめました。

    アタック:「プランアタックとキッキングゲーム」

    立命館のラグビーは、「プランアタック」と「キッキングゲーム」に集約されます。

    キッキングゲームは、SH香山創祐選手やSO初田 航汰選手からのハイパントキックと、それに続く3人のキックチェイス、ラックへの素早いプレッシャーからターンオーバーを狙うという、高精度な連動を見せ、京産大に大きなプレッシャーを与えました。今シーズンの関西リーグで最もキックを多用し、テリトリー獲得と空中戦を作り出すという両面で、その意識と精度、チェイスのレベルの高さが際立ちました。

    プランアタックでは、事前に用意されたシークエンス(連続攻撃の型)をここぞの場面で繰り出し、スコアに繋げました。特に特徴的だったのは、1322のポッド配置において、通常FWの後ろ(バックドア)に配置されるセンターを、外側に配置し、外側での優位性を生み出す工夫です。このシークエンスはブレイクを生み出し、一気にトライまで取り切る力を見せましたが、ミドルゾーンが手薄になり、ターンオーバーを誘発しやすいという表裏一体の課題も露呈しました。

    FW:ラインアウトの精密さとセットプレーの工夫

    ラインアウトの獲得精度は素晴らしく、17回中15回という高い成功率を記録。5メン、6メン、オールメンを巧みに使い分け、フロント、ミドル、バックへのボール供給に工夫を凝らす獲得の精度は、関西随一の強みと言えます。 また、ラインアウトからモールを意識させた後のピールオフで、イエローカードで人数が少ないディフェンスのスペースを突き、トライを獲得するなど、工夫されたセットプレーアタックは京産大を揺さぶりました。

    課題:ゴール前での仕留めの精度

    立命館の最大の課題は、スタッツにも現れている「ゴール前での仕留めの部分」です。今回のスコアは「22m外から」の攻撃スタートが多く繋がっており、ゴール前まで迫ると、ディフェンスラインが強固になり、プレッシャーを受けてターンオーバーを許すケースが多く見られました。22m内での決定率が勝敗を分けた大きな要因と言えます。

    ディフェンス:ダブルタックルとラックへのラッシュ

    立命館のディフェンスは、ダブルタックルの強度が高く、相手をドミネイトする場面が目立ちました。テイクダウン後の素早い起き上がりとラックへのラッシュがチームとして徹底されており、素晴らしいターンオーバーを引き出しました。前半は規律と共に前へ出るプレッシャーディフェンスが機能していましたが、足が止まる後半終盤にギャップや横の連携が乱れ、崩しきられる場面があり、ここは今後の課題となるでしょう。モールディフェンスについては、サックとファイトを使い分け、京産大の強みを70分まで封じ込めた対策は一定の評価ができます。


    データから見る勝負の分岐点

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    互いにアタックの機会を多く得ていたことがスタッツから裏付けられます。
    最も勝負を分けたのは、互いに10回、11回とあった「敵陣22mエリア内の決定率」でした。立命館は敵陣深くでポゼッションを持ちながら、自分たちの少ないミスを京産大に取り切られるなど、ゴール前での精度の差が敗因となりました。 アタックスタイルにおいては、京産大がFW中心の9シェイプに重きを置くのに対し、立命館が3割近くをバックラインアタックに割いていることは、「外側にチャンスメイクを求める」立命館のプランアタックを象徴しています。

    まとめ

    最終スコアこそ開きましたが、この試合は後半の最後まで勝敗の行方が分からない、非常に質の高い一戦でした。立命館大学は、巧妙なゲームマネジメントと、工夫を凝らしたシークエンスアタック、そして高精度のキッキングゲームという「打倒京産」のプランを披露し、全勝チームを大いに苦しめました。

    京都産業大学は、ポゼッションとテリトリーの劣勢を、大学屈指の決定力、セットプレーの圧力、そして22m内での鉄壁のディフェンスという「風格」で乗り越えました。自慢のモールに加えて、今後のアタック連携がさらに深まれば、京産大はさらに手が付けられないチームとなるでしょう。
    負けられない一戦で見せた立命館のラグビー、そしてそれを乗り越えた京産大の盤石の強さ。関西大学ラグビーリーグ戦の面白さを凝縮した見応えのある試合でした。

    では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:近畿大学対関西大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:近畿大学対関西大学

    まさに死闘!ポゼッションvsエリア、勝負を分けたセットプレーの執念

    関西大学ラグビーリーグ開幕から2試合を終え、近畿大学が1勝1敗、対する関西大学が痛い2連敗という状況で迎えたこの一戦は、両チームにとって秋の戦線を左右する「落とせないゲーム」となりました。上位に食い込むためには、もはやどちらも負けられない極限のプレッシャーの中、試合は最後まで予測不能な、まさに劇的な結末を迎えました。

    近年の対戦成績の因縁も相まって、試合は近畿大学の「ポゼッションアタック」と、関西大学の「テリトリーゲーム」という、極めて対照的なスタイルが激しくぶつかり合いました。ディフェンスにおいても、お互いの決定機を許さぬ堅固な攻防が続き、特に関西大学7番 三木翼選手に見られたような、試合の流れを変える「執念のスティール」も飛び出す白熱の展開となりました。

    ◆試合展開:サヨナラPGが導いた劇的勝利

    試合は、SO﨑田士人選手のロングキックを軸にテリトリーを支配しようとする関西大学に対し、近畿大学が自陣からでもボールを継続するポゼッションアタックを見せる構図で進行しました。

    まずリードを奪ったのは関西大学。敵陣でのターンオーバーという、彼らの得意な形からチャンスを作り、強固なモールを起点に先制します。対する近畿大学も、中盤でのラインブレイクを起点にペナルティーを誘い、ゴール前からの攻撃をスコアに繋げ、一進一退の攻防に。

    試合のハイライトは後半。近畿大学は、工夫されたシークエンスアタックから2本連続でトライを奪い、リードを奪うことに成功します。しかし、敗戦の危機に立たされた関西大学は、ゴール前のFWが10フェーズを超える猛烈な連続攻撃を仕掛け、ディフェンスをこじ開けて土壇場で同点に追いつく執念を見せました。

    そして、試合の結末を分けたのはまさしくラストワンプレー。プレッシャーがピークに達した瞬間、スクラムで執念のペナルティーを奪い、サヨナラペナルティーゴールを決めた関西大学が劇的な勝利を手繰り寄せました。


    ◆近畿大学:SH渡邊選手が牽引する高精度アタック

    近畿大学は、現代ラグビーでは比較的珍しくなった試合序盤のキックオフレシーブの局面からポゼッションを重ねるスタイルを徹底し、ボールを持ちながら防御をこじ開ける道筋を模索していました。

    巧妙に設計されたアタックシークエンス

    攻撃の中心にいたのは、SH渡邊晴斗選手です。彼を起点とした9シェイプがアタックの基本構造となり、スイベルパスを用いてバックドアへボールを動かし、外側へ展開する動きが近大のアタックの代名詞となりました。加えて、大外のスペースやキックカウンターの局面では、WTB太田啓嵩選手のダイナミックなランニングからブレイクを起こし、決定的なスコアチャンスへ繋げていました。

    特筆すべきは、FW陣の高いハンドリングスキルに裏打ちされたティップオンパスの多用です。FW同士の短いパスは、シェイプに帰属する全員がボールキャリアーとなり、相手ディフェンスの焦点を絞らせませんでした。バックスラインは広く浅いラインを形成し、FWとバックスの役割を明確に分離しながら、内側で良い形でボールが供給された際、走力のあるバックスがブレイクを起こし、決定的なスコアチャンスを生み出していました。

    その戦術的深さを見せたのが、後半の連続スコアです。

    1. 一つ目のトライは、SH渡邊選手がラックから意図的に離れた位置に立ち、ピックを仕掛けるFWをダミーとし、深めに位置するバックスラインへボールを供給していました。ラックサイドに集中していた関大ディフェンスの裏をかく効果覿面なプレーでした。
    2. 二つ目のトライは、ラックサイドのFWへのダミーパスを入れ、外側から13番 井上 晴嵐選手が縦に鋭く走り込み、その裏を9シェイプの機動力のあるFWが回り込みギャップを突く形。二列目から飛び出してきたバックスの縦方向のランニングに対し、FWが差し込むこの連動は、関西大学にとって非常に嫌なプレーとなりました。

    これらは、事前に入念に用意されたプレーであり、ハーフ団の采配が見事に的中し、相手の陣形に合わせて練り込まれたプレーを繰り出す、アタックの質の高さを示しています。

    課題となったアタックレンジとトランジション

    しかし、ポゼッションを追求するがゆえの課題も見られました。バックスラインがシングルに並ぶ構造は、相手のスライドディフェンスに上手く対応されてしまうと、苦しい体勢でのラックメイクを強いられる原因となりました。また、ミドルゾーンにおけるアタックレンジの狭さも、相手ディフェンスに見切られやすい要因となり、ティップオンパスがブレイクに繋がらないシーンを増やしていました。

    何よりも、ポゼッションラグビーの宿命として、ターンオーバーされた後の1次ディフェンスの対応が大きなテーマとして残りました。ボールを拾われたり、ペナルティーを犯したりした後に一気にピンチを背負い、スコアに直結させられた場面は、この試合を苦しくした大きな要因でした。

    ディフェンス面では、タックル強度の高さは今年も健在で、差し込まれる場面よりもドミネイトする場面の方が多く見られましたが、ゴールを背負った際の近場の連続ピックやモールに対する課題は、今後の修正点となるでしょう。


    ◆関西大学:SO﨑田選手と強靭なFWによる勝利

    関西大学は、終始アタックとディフェンスの戦術的なバランスを保ちながら、スコアチャンスを確実にものにしていく効率的かつフィジカルなラグビーを展開しました。

    圧倒的なエリア支配力とキックチェイス

    関西大学の戦い方は、SH 宮内 幹大選手を起点としながら、中盤からは徹底したキック中心のテリトリーメインの戦略にシフトしました。その戦略を支えたのが、SO 﨑田 士人選手推定60mにも達する超ロングキックです。この一発のキックが、試合の局面を一瞬で敵陣深くに押し込み、エリア獲得に大きく貢献しました。

    このエリア獲得の意識は、キックチェイスのディフェンス精度として具現化されました。高精度のチェイスから相手にプレッシャーをかけ、ターンオーバーを誘発するシーンは、今季の関西大学の最も強力な武器であると断言できます。スコアの多く(合計4本のトライ)が敵陣でのターンオーバーを起点としている事実は、この戦術の有効性を証明しています。

    勝利を決定づけたFWの執念と三木選手の献身

    関西大学のもう一つの得点源は、FW戦における圧倒的な強さです。中盤でペナルティーを獲得し、敵陣でのラインアウトモールを起点に押し込む流れは、安定した攻撃パターンとなっていました。

    そして、この試合の最も重要な決め手となったのがスクラムです。前半には反則を取られるシーンがありましたが、後半の重要な局面、そして同点に追いついた後の最後の土壇場でペナルティーを獲得したことが、FW陣のフィジカルと精神的な勝負強さが勝利を手繰り寄せたことの要因と言えます。80分間フィールドプレーを続けた後、最後に力を振り絞りペナルティーを取り切った関西大学のFW陣は、まさしく「殊勲の働き」でした。

    ディフェンス面では、規律を保ちながら近畿大学のポゼッションに対し粘り強く対応しています。特に7番三木翼選手は、ディフェンスラインの中でも鋭いタックルを連発し、さらにスティール(ターンオーバー)を二度成功させるなど、近畿大学の連続攻撃の芽を摘む、極めて献身的な役割を担っていました。


    ◆データが語る勝敗の分岐点

    この試合の勝敗を分けたポイントは、詳細なデータからも明らかになりました。

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    両チームのアタックシェイプは9シェイプが中心でしたが、決定的な差が生まれたのはセットプレーとエリアの攻防でした。
    ラインアウトの獲得率は、近畿大学60%に対し、関西大学は76%と差がつきました。関西大学は13回のラインアウト機会から安定した獲得率を見せ、そこから攻撃を生み出しました。一方、近畿大学にとって、マイボールのラインアウトやスクラムで逆にペナルティーを奪われるシーンは、攻撃を寸断され、苦しめられた最大の要因と言えるでしょう。

    22mエントリー回数関西大学が近畿大学を上回りました。これは、関西大学が攻撃回数自体は同等か少ない中で記録した数字であり、ロングキックとキックチェイスによる敵陣でのターンオーバー戦略が、効率的なエリア侵入に繋がったことを示しています。近畿大学は侵入回数あたりにおいては的確にスコアまで繋げられていたものの、そもそも敵陣に入りきれない時間が長かったことが、最終的な敗因の一つとなりました。


    まとめと今後の展望

    スコアが拮抗する展開で、両チームともにディフェンスとアタックの持ち味が出尽くした、非常に質の高いゲームでした。
    ポゼッションを徹底し、ハーフ団の采配と工夫されたシークエンスでリードを奪った近畿大学。そのアタックの可能性は間違いなく本物ですが、セットプレーとトランジションディフェンスの修正が、今後の上位進出の鍵となります。

    対照的に、戦うエリアを意識し、セットプレーとFWのフィジカルで最後の最後まで粘り強く戦い抜いた関西大学。逆転されてもジリジリと迫り、最後に値千金のスクラムでの踏ん張りを見せた勝負強さは、2敗からの巻き返しに向け、大きな自信となるでしょう。

    両チーム共にこの死闘を糧に、どのように残りのリーグ戦を戦い抜くのか、今後の展開から目が離せません。では。

    (文:山本陽平)

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:同志社大学対関西学院大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:同志社大学対関西学院大学

    熱戦を制した関学の「計画性」と、同志社の「修正力」が光る伝統の一戦

    関西ラグビーリーグの注目カード、同志社大学と関西学院大学の対決は、シーズン序盤にして早くも白熱の攻防となりました。共に初戦を白星で飾り、勢いに乗る両雄のぶつかりは、昨シーズンの順位を巡る因縁も相まって、大きな山場となることは間違いありませんでした。

    同志社大学は、本来ゲームメーカーであるSO(スタンドオフ)やFB(フルバック)を務めることが多いキャプテンの大島泰真選手を、あえて14番ウイングに起用。これは、試合中に彼を本来のSOの位置に移動させ、そこを起点とした流動的な移動攻撃を仕掛けるという、相手の予測を裏切る明確な戦術的工夫でした。

    対する関西学院大学も、高校代表経験を持つ武藤航生選手、中俊一朗選手といった強力なアタッカーをバックスに要し、持ち味であるバックス陣の展開力に磨きをかけてきました。

    ◆試合展開:関学の「理想」と同志社の「苦闘」

    試合の主導権を握ったのは関西学院大学でした。彼らは持ち味であるバックス陣の展開力と、FWのモールを効果的に組み合わせ、敵陣に入れば確実にスコアを取り、理想的な試合展開を作り上げました。ディフェンス面でも、激しく前にラインを押し上げるハイプレッシャーをかけ続け、同志社の攻撃リズムを寸断しました。

    一方の同志社大学は、大島選手がプラン通りSOの位置に入りながら、移動攻撃で活路を見出そうと試みましたが、関学の激しいディフェンスの前に苦しみます。ボールを持つ機会は関学と遜色ありませんでしたが、ディフェンスの圧力からボールを前に運べない時間帯が続きました。自らのボールロストやペナルティーを犯す場面が重なり、リズムに乗れず、試合は終始関西学院のペースで進みました。

    試合は終盤まで関西学院がリードを保ち、スコア力の差が明確に表れる形となりました。しかし、同志社も粘りを見せます。後半ラスト10分にアタックを修正し、立て続けにトライを奪う修正力と地力を見せつけました。この猛追は今後に向けて大きな期待を抱かせるものでしたが、前半の失点が響き、結果は21-34で関西学院大学が勝利を収めました。このスコアは、両チームが持つポテンシャルの高さを感じさせると同時に、中盤の規律と決定力が勝敗を分ける鍵となったと感じます。

    この試合から見えてきた両チームの強みと課題を、詳細に分析します。

    ◆同志社大学:司令塔・大島の配置転換に見る「工夫」とアタックの「修正力」

    同志社大学はキャプテンの大島泰真選手を、通常SOやFBが多い中この試合では14番ウイングで起用するという意外性のある布陣で臨みました。これは、彼が本来の司令塔であるスタンドオフ(SO)の位置に移動しながら攻撃を組み立てる、柔軟な移動攻撃を軸とする狙いがあったと見られます。

    苦しんだ前半:関学のハイプレッシャーに沈黙したアタック

    しかし、前半は関西学院大学の激しいラッシュアップディフェンスの前に、同志社のアタックは大きな苦戦を強いられました。

    特に課題となったのは、セットプレーからのファーストアタックでした。ゲインラインを突破できず、厳しいディフェンスのプレッシャーからターンオーバーを招く場面が続出しました。目指していたショートサイドや逆目への移動攻撃、大島選手やFB上嶋友也選手が絡んで相手FWとのミスマッチを狙うプランは、その手前でボールを供給できずに頓挫してしまいました。

    グラウンドワークやサポートのつき方にも課題が見られ、ラックに人を割きすぎることで、次以降のアタックに厚みが欠け、さらにプレッシャーを受けやすい悪循環に陥ったと言えます。FW陣はスクラムでペナルティーを獲得するなど推進力を見せていましたが、細かな連携と立ち位置の修正が急務となりました。

    驚異の後半ラスト10分:スタイル激変が生んだブレイク

    それでも、同志社大学の真骨頂は後半ラスト10分に発揮されます。関西学院のディフェンススタイルに対し、それまでの広く深いアタックラインから大きく戦術を転換しました。

    1. 立ち位置の変更: ディフェンスに詰め切られる前にボールを繋ぐため、狭く深いアタックラインを構え直しました。
    2. 仕掛けの焦点化: ゲインラインへ接近し、トイメン(真正面の相手)へのコミットを誘いながら、ギリギリで裏のキャリアーに繋ぎ、ディフェンスとディフェンスのギャップを突くことに成功。
    3. 攻撃の柔軟性: 10シェイプ(SO周辺)中心にボールを散らしつつ、FWがキャリー後にすぐ起き上がって再度前進する「ピック&ゴー」などを織り交ぜ、相手ディフェンスラインを効果的に下げました。

    この修正力と工夫された仕掛けは見事の一言で、立て続けにトライを奪う地力を見せつけました。最終スコアでは及びませんでしたが、この猛攻は次戦以降への大きな希望となるでしょう。

    ディフェンス:高い個の能力と規律の乱れ

    ディフェンス面では、個々のタックル精度と強度は高いレベルにありました。HO荒川駿選手のジャッカル、LO林慶音選手のカウンターラックなど、要所でのターンオーバーも光りました。しかし、ディフェンス時のペナルティーが重なり、自陣深くでの厳しい展開を招きました。特にモール起点やキックカウンター後のアンストラクチャーな状況で後手に回ることが多く、ディフェンスラインを整える前に攻め込まれる展開が続きました。

    ポイントとして、アンストラクチャー後のエッジ(フィールドのサイドラインに近い部分)で、相手のラックに対してもう一歩踏み込んだプレッシャーをかけ、相手の攻撃テンポをわずかにでもずらすことができていれば、試合の流れは変わっていたかもしれません。これにより、ディフェンスラインがリロード(再配置)する時間を確保し、次のフェーズでのプレッシャーを強めることが可能になります。


    ◆関西学院大学:柔軟なポッドシステムとハイレベルな「計画性」

    勝利を収めた関西学院大学は、「柔軟性と計画性に富んだ」非常にバランスの取れたアタックを展開しました。彼らの攻撃は、個人の能力に依存するのではなく、チームとしての完成度の高さを感じさせるものでした。

    アタック:多彩なシェイプとアンストラクチャーの脅威

    関西学院のFWは、No.8小林典大選手を中心に接点での圧力を意識的に高めており、モールやシンプルな9シェイプから確実にゲインを重ねました。
    特筆すべきは、ポッドシステム(FWの集団配置)の柔軟性です。基本の1-3-3-1を軸にしながらも、状況に応じて3-3-2や1-4-2-1へと変化させ、相手ディフェンスの的を絞らせませんでした。

    最大の強みは、ターンオーバー後のアンストラクチャーアタックです。ブレイクダウンに強いFWをエッジ(外側)に配置することが多い中、関学はエッジにボールを運んだ際にバックスのみでクイックにボールをリサイクルできる点で優位性を発揮しました。これにより、テンポを落とさずに攻撃を継続し、相手がディフェンスラインを整える前に仕留めることが可能となっていました。

    SO阪井優昇選手を中心とした10シェイプから、CTB下元大誠選手へ繋ぎ、バックスラインへ展開する形も確立されており、計画性の高さが伺えました。
    ゴール前では、FWが9シェイプを中心にゴールラインへ垂直に仕掛けつつ、そのFWを飛ばして中選手や下元選手が仕掛け、裏の阪井選手へ繋ぐスイベルパスのシークエンスは、ハイレベルなボール捌きとプレッシャー下でのパスワークの賜物でした。さらに、後半には下元選手がSOに入り縦に仕掛けるなど、複数人がファーストレシーバーになれる強みも披露しました。

    ディフェンス:激しいラッシュと組織力

    ディフェンスは、代名詞とも言える激しいラッシュアップディフェンスが終始機能しました。ボールキャリアーに対して鋭く、膝下に刺さるような低いタックルを徹底し、同志社の勢いを寸断しています。アタックラインの裏に控えるSOに対しても外側から詰めてプレッシャーをかけ、組織的ディフェンスのレベルの高さを見せつけました。

    PR大塚壮二郎選手のタックル後のリアクションからそのままラックを超えてターンオーバーを起こすなど、接点での高い意識も光りました。終盤は同志社の猛攻でブレイクを許す場面もありましたが、裏のバックス陣が高いタックル精度でフォローし、一気にトライを許さない粘り強さも持ち合わせていました。


    ◆データで見る勝敗の分岐点:鍵は「22m決定率」と「規律」

    この試合の勝敗を分けたポイントは、詳細なデータからも明らかになりました。

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    最大のポイントは、同志社と関西学院が同水準の11回、12回の敵陣22m侵入回数がありながら、トライまで取り切る決定率に大きな差が出た点です。
    また、敵陣22m侵入のきっかけとして、関西学院がペナルティー獲得による侵入が多かったことは、中盤での規律の差がそのままスコアに直結したことを示しています。関西学院の激しいディフェンスによって同志社がペナルティーを誘発され、効果的に敵陣に侵入されてしまいました。

    関西学院は、中盤でのキック戦術としてハイパントを積極的に用いていました。これは単にエリアを稼ぐためだけでなく、キック後のチェイスと空中戦の優位性を活かして、ラックでのプレッシャーからターンオーバーを引き起こすという明確な狙いがありました。実際、この積極的なハイパントはいくつかの場面で機能し、同志社のストラクチャー攻撃を出させないという意味でも、有効な戦術であったと言えます。

    また、意図的にロングキックでタッチラインの外に蹴り出さず、インフィールドに残すことも狙っていました。これは、同志社をフィールド内で受け身のディフェンスに追い込み、関西学院が得意とするアンストラクチャーな状況、つまりディフェンスラインが整っていない状況を作り出す勝機を見ていたためだと推察されます。

    アタックシェイプ(攻撃の形)の面では、関西学院は比較的ワイドな展開を中心としており、10シェイプ(スタンドオフを軸とした攻撃)とバックスラインでの展開が攻撃の主軸となっていました。これは、彼らの誇るバックス陣の展開力とランニングスキルを最大限に活かすための設計図でした。

    対してセットプレー、特にスクラムやラインアウトの安定性は、この試合では同志社大学が大きく上回っており、同志社にとって数少ない有効な攻撃の起点となっていました。データ上、同志社はラインアウトからのサインプレーやスクラムでのペナルティー獲得などで優位に立っていたと言えます。

    この安定したセットプレーを活かすため、同志社大学としては、ゴール前付近でラインアウトをより多く発生させることができていれば、FW主導の強力なアタックやモールからのスコアチャンスがさらに増え、得点差を詰めることが可能だったと見えます。セットプレーで得た優位性を、いかに敵陣深くでの攻撃に繋げられるかが、今後の同志社の課題となるでしょう。

    さらに、アタックの終わり方を見ると、同志社が10回のターンオーバーで攻撃を終えたのに対し、関西学院はわずか3回。これは関学のディフェンス精度の高さだけでなく、ボールロストを避けてキックで攻撃を終えるといったマネジメント能力の差も大きく影響したと言えます。

    ◆まとめ:両雄が示した「進化」と今後の期待

    同志社大学は、キャプテン大島選手を中心とした新しいアタックの形を模索しており、後半に見せた驚異的な修正力は彼らの高いポテンシャルを証明しました。今後は、前半のアタックの精度と、ディフェンス時の規律を整えることが鍵となるでしょう。

    一方、関西学院大学は、柔軟で計画的なアタックと、高い組織力を持つディフェンスを披露し、総合力の高さで勝利を掴み取りました。特にアンストラクチャーアタックにおける完成度の高さは、今シーズンの大きな武器となりそうです。今後は、ミドルゾーンでテンポが遅れた際の攻撃のバリエーションがどう進化していくのかに注目が集まります。

    この伝統の一戦は、両チームが更なる進化を遂げていることを示しました。関西ラグビーリーグの行方を占う上で、非常に重要な一戦であったことは間違いありません。

    では。

  • 【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:明治大学対筑波大学

    【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:明治大学対筑波大学

    一進一退の接戦の最後に、劇的な逆転劇

    みなさんこんにちは
    遂に大学ラグビーのシーズンが始まりました

    今回は関東大学対抗戦より、9/14に行われた明治大学対筑波大学の試合について、見ていきたいと思います

    明治大学のラグビー

    <今節の明治大学>

    明治大学は、リーグ屈指のFW陣と、決定力のあるBK陣でバランその取れた攻守を見せるチームです。接点に定評があり、前に出る力は日本全国を見てもトップレベルでしょう。

    チームのタクトを振るうのはSOの伊藤龍之介選手で、ラン・パス・キックのバランスがいい万能型の選手でありながら、中でもランニングスキルは高水準にあり、攻撃面で突出した能力を持つ選手です。

    そんな明治大学ですが、今回の試合では「らしくない」ポイントがいくつか見られました。一般的な戦略の範囲内では正道とも言える戦略性を見せていましたが、それは得てして明治らしくないとも言える状況でした。

    <苦戦したラインアウト>

    最も顕著に現れた例としては、ラインアウトの成功率の部分ではないでしょうか。19回の試行回数に対して11回の成功と、半数近いラインアウトをミスで失っていることになります。筑波大学側のラインアウトスティールを受けたりと、かなりプレッシャーを受けていた側面が見受けられ、不安定さにつながっています。

    明治は、そういった状況に対して、ラインアウトの一番前で取る、という戦略をとっていました。後半に生まれた西野帆平選手のトライはその最たる例で、ジャンプを解さずにダイレクトに確保することでミスを低減することができます。

    しかし、ここに明治大学としての難しさを感じました。戦略的な正道で言えばこの選択は間違いのないものであるように思います。しかし、明治としてこの選択が正しかったかというと、メンタリティの部分も合わせて不安定になる要因にもなったかもしれません。

    <アタックの傾向>

    アタック全体としては、非常にいい傾向を見せていました。接点で上回り、リズムを出して相手の反則を誘発する。明治らしさもありながら「こうすれば相手が崩れる」というパターンに試合を持ち込んでいました。

    アタックは接点の他にも階層構造を用いて展開を図るシーンもあり、表と裏の構造を使っています。特に相手陣に向かって前進し、モメンタムを獲得できている時に構造的なアタックを使い、深さを生み出しながらさらにモメンタムを出すことに成功しています。

    また、主体的にキックを使ってエリアコントロールやプレッシャーをかけていました。自陣寄りではロングキック、中盤ではハイパントを交えたりと、戦略的なキックゲームに持ち込んでいました。

    ただ、ここも試合展開として難しいところで、個人的な視点としては、中盤での明治の怖さは「展開してくる」ところにあると思っています。伊藤龍選手の展開力と走力、その他の選手の機動力と接点の強さが揃っていたりと、展開するには十二分の力を発揮します。

    しかし、明治はそこまで展開にこだわらず、戦略的な攻防を続けていました。結果として、戦略性の範囲内でのスコアに留まっていたという見方をしています。

    敵陣深くでFW戦に持ち込むことができれば明治の強さを発揮できるのですが、明治はラインアウトに不安定感があり、ゴール前では消極的な選択が中心となっていました。結果としてエッジでのトライになってゴールを狙いづらかったりと、さまざまな要素にラインアウトの不安定感が影響していました。

    <ディフェンスの傾向>

    ディフェンスも悪くはない部分が多かったとは思います。接点でも強く、規律正しいディフェンスを見せており、筑波大学のアタックの多くを下げることに成功していました。

    しかし、それも接点の土俵に立った場合の話で、接点以外の部分に関しては互角か押し込まれるような展開になっていたように思います。
    特にエッジの部分のディフェンスでは、崩された多くの場合でFWとBKのミスマッチを作られています。

    前半に奪われた2トライは、どちらもカメラから見て手前側のサイドを活用された形でした。1つ目のトライは展開の中でFWが偏って配置されてミスマッチを突かれ、2つ目のトライはチェイスラインで唯一のBKであった白井瑛人選手選手がタックルを外されたことによって、BK2人と走力のあるFLに対してFWが2人という状況に陥っていました。

    また、最後の筑波大学の逆転につながったトライのシーンでは、2フェイズ前に明治大学の選手が規律的に順目方向に4人回ってしまい、結果として逆目方向に通されたアタックをBKである海老澤琥珀選手が止めざるを得ない状況になっていました。海老澤選手がタックルをしたことでさらに外側のエリアのディフェンスが薄くなり、トライに繋げられています。

    筑波大学のラグビー

    <今節の筑波大学>

    筑波大学は、接点とブレイクダウンに強みを持つ、上位校食いをすることもあるチームです。泥臭くプレーをすることを得意としています。

    筑波大学は、9番の高橋佑太朗選手と10番の楢本幹志朗選手が、うまく試合展開をコントロールしていたように見えました。
    高橋選手は攻撃的で、楢本選手は安定型の思考をしており、キックを主体に試合を動かしていました。

    特に蹴り合いになった時の楢本選手のキックの精度は高く、単純なキック距離で負けてしまっている時も、前に仕掛けながら左足で放つキックによって、最低限稼いでおきたいラインは越えることができていたように思います。

    <効果的に働いたアタック>

    今回の試合では、特にエッジに展開するようなアタックが効果的に働いていたように感じました。必ずしも大きな展開ではなくとも、エッジでのショートパスで打開しています。

    ここ数年の明治のディフェンスを見ると、中盤での厚さがある反面、エッジでは比較的ゲインを許すなど、アンバランスな堅さのあるチームでした。
    夏合宿の帝京大学戦など、展開力のあるチームに対しては少し苦戦傾向にある印象です。

    筑波大学は、大まかにいうとエッジをうまく活用していました。エッジからエッジのような大きく展開するような形ではなく、ショートサイドのエッジを攻略しています。

    前述したように明治のディフェンスはラックから近いエリアが堅く、つまりラックの位置によってはFWが固まっているような状況が生まれています。そのシーンに対して、楢本選手は細かなサイドチェンジや状況判断で狭いサイドに優位性がある時はそこを狙い、走力のある中森真翔選手をエッジに配置することによって質的にも上回る状況を作り出していました。

    <アタックの傾向>

    筑波のアタックは比較的シンプルで、接点にこだわりの見える形です。9シェイプを多く用い、12番の今村颯汰選手や13番の東島和哉選手といった縦に出られる選手も交えながら、コリジョンで中盤のアタックを安定させています。

    また、今回の試合では前述したようにキックでエリアをコントロールしている傾向も見られました。中盤でのアタックでは苦戦していた様子もあり、早めに蹴り込むことで中盤でミスが起きたりする前にボールを前に運ぶことができていました。
    キックがタッチに出ればプレッシャーをかけ、タッチに出なくても相手の蹴り返しを待つことができるので安定感が見られています。

    基本的には1−3−3−1のような配置を取り、エッジに走力のある中森選手のような選手を配置しています。中盤はタイトファイブの選手とNO8の大町尚生選手を配置して安定したコンタクトを見せ、楢本選手がボールを動かしながら接点を作り出していました。

    ただ、全体的にブレイクダウンでは苦戦傾向にあったように思います。接点の強い明治に押され、人数をかけなければいけなかったり、スティールを狙われて反則を犯したりと、難しい展開でした。

    <ディフェンスの傾向>

    ディフェンスもどちらかといえば苦戦していたという見方をすることができます。相手の接点が強く、一部の選手には大きく前に出られていたりもしました。

    ただ、組織的なディフェンスの部分では多くのシーンで相手を止めることができていたように思います。タックルも低く入ることができており、アシストタックルの精度の高さも見せていました。

    一方で、ペナルティのうちの多くはディフェンス時に発生したものであり、相手がモメンタムを出し始めた時にペナルティを犯してしまったりと相手にポゼッションを献上するようなシーンも見られていました。

    まとめ

    結果としては、筑波大学の逆転勝利という形にはなったが、トライ数は共に4トライと、互角の結果を示している。また、試合全体のモメンタムを見ても、再戦して必ずしも同じ結果になるとは限らない。

    筑波としても、「トライをとって残り2分」ではなく「トライを取られて残り2分」というポゼッションになったのも影響しているかもしれない。トライをとった場合は残り2分で相手キックオフ、トライを取られた場合はこちら側のキックオフとなるため、時間の使い方が変わってくる。

    むしろ、ここからの明治には期待しかないだろう。どの強豪校にも言えることだが、一度負けたチームは必ず強くなる。ここで負けてよかった、と言えるようなシーズンになることを期待したい。

    (文:今本貴士)

  • 【マッチレビュー】2025関東大学ラグビー春季大会Aグループ:早稲田対大東文化を質的分析で見てみた

    【マッチレビュー】2025関東大学ラグビー春季大会Aグループ:早稲田対大東文化を質的分析で見てみた

    今シーズンも、大学ラグビーが始まりました。
    みなさんも、お待ちかねのことだったと思います。

    今回は、4/20に行われた関東大学春季大会より、早稲田大学対大東文化大学の試合について、分析をしてみました。
    アングルの都合上、質的分析のみとなることをご容赦ください。

    それでは、見ていきましょう。

    早稲田大学のラグビー

    ・10番起点のアタック

    早稲田のアタックの中心となっていたのは、今シーズンも服部亮太選手だったように感じます。
    SHの糸瀬真周選手とのコンビネーションでグラウンドを広く使い、ボールを積極的に動かしていました。

    昨シーズンから注目する材料になっていましたが、服部選手は走力にも優れるタイプのプレイメーカーで、今回の試合でもステップを効果的に用いてノミネートされた相手との位置関係をずらしていました。
    外に膨らむような動きから鋭角にステップで切れ込むこともできるので、ビッグゲインこそ少なかったものの、ノミネートがずれて相手の他の選手が寄せられることによって、ある意味強引に局地的な数的優位性を作ることもできていました。

    また、キックも相変わらずの飛距離です。
    中盤で相手のキックを受けた際には距離のあるパントとロングキックの中間のようなキックを蹴り込み、キックを受けた選手に対して激しいプレッシャーをかけていました。
    対空時間も長く、本来であれば味方が追いつきづらいような距離のキックであっても、十分に間に合うほどの時間を稼ぐことができていました。

    アタックの主体は9シェイプでしたが、それと同程度に用いられていたのが10シェイプです。
    10番に入った服部選手に対して3人の選手が配置され、選択肢を作っています。

    この10シェイプの構築が他のチームと少し異なる部分で、多くの場合では3人の選手が服部選手に対してオープンの位置に並んでいます。
    しかし、一定数のフェイズにおいて、2人と1人にスプリットをして、オープン側に2人、内側に1人というアタックの組み方をしていました。

    このようなスプリット形式の配置によって、相手にとって選択肢を押し付けることができます。
    普通の10シェイプではオープン側に並んだ3人の集団の、大体が中央の選手にパスを放ることになります。
    この場合、3人がまとまっていることでラック形成の際に安定感が出るというメリットがあります。

    これに対して、2人と1人にスプリットをすることで、内と外のパス選択肢が生まれます。
    3人の集団では1方向でしかなかったアタックフローが、スプリットをすることで2方向に選択肢が生じます。
    2人側の配置を、2人をフラットに配置することによってさらに投げ分けの選択肢が生まれ、バリエーションを増やしていました。

    服部選手はパススキルも高く、投げ分けによってワンパスでモメンタムを作り出すことができます。
    一つのパスで動く盤面ですが、大きな効果を示していると言えます。

    ・アングルと接点

    早稲田のアタックは、今回の試合に関しては接点に比重を置いていたように感じます。
    アタックの中で数的優位性を作って外展開をするといったシーンはそう多くはなく、中盤からのビッグゲインでトライまで取り切るといったシーンはそう多くなかったように見えました。

    前述した9シェイプと10シェイプもそうですが、アタックの肝となっていたのはボールを受ける際のアングルです。
    9シェイプの中で生まれたティップオンパスに対してアングルをつけて走り込んだり、12番と13番のコンビネーションからなるアングルをつけたアタックなど、単なる接点ではなく、瞬間的な位置的優位性を作り出すことにこだわっていたように感じました。

    特に優れたアングルを見せていたのは13番の金子礼人選手です。
    12番の黒川和音選手とのコンビネーションで、相手にジワリと仕掛けた黒川選手に対して近いエリアに向けてアングルをつけながらキャリーに至っていました。
    体も強く、真正面からタックルを受けなければ安定したキャリーにもつながっており、ゴール前のアタックではリズムを作ることにも貢献していました。

    また、8番に入った城央祐選手もキャリーで優れたシーンを見せており、アングルをつけた走り込みで、相手の上に乗るキャリーを見せていました。
    ゴール前でのアタックでは2本のトライを取ったりと、チームのモメンタムを活かしつつも、体の強さを活かした突貫を見せていました。

    早稲田は得点に対して相手を崩し切った回数はそう多くはなかったように感じています。
    ただ、相手をドミナントするキャリー、つまり相手のタックルの上に乗ったり相手のタックルを受けながらも前進するキャリーをこなすことによって、相手のミスやペナルティに繋げ、結果として敵陣でのセットピースに繋げていました。

    ・激しいディフェンス

    ディフェンスでも、相手のアタックを効果的に封じ込めていたように見えました。
    接点の位置を完全に押し込みながらディフェンスを続け、相手アタックラインとの間に生まれる空間を積極的に埋めるようなディフェンスをしていました。

    タックルは低く、激しさの伴うもので、接点が弱いわけではない大東文化のキャリアーに対して、前に出られることなく倒し切っていました。
    少し飛び込むようなシーンも見られましたが、シーズンの深まりにつれて修正も容易である部分であると思います。

    結果的には4トライを奪われていますが、1トライは個人のスキルの部分、2トライは早稲田側のミスからダイレクトにターンオーバートライを奪われた形でした。
    ジェネラルフェイズのディフェンスで崩されたシーンは多くなかったので、自信のつくディフェンスフローではなかったかと思います。

    大東文化大学のラグビー

    ・階層構造とエッジアタック

    大東文化は、ある程度階層構造を使った攻略を意識したアタックをしていたように見えます。
    10番の伊藤和樹選手のボールのもらい方とチャンスの活かし方を見ると、階層構造をダイレクトにラインブレイクに活かそうとする様子が見受けられるからです。

    アタックの構造としては一般的なものに準じたもので、9シェイプと10シェイプに、フェイズに応じて3人の選手を配置する形かと思います。
    昨シーズンは4人ポッドを組んでいるように見えるシーンも散見されていましたが、今回の試合では明確な4人ポッドはなかったように感じます。

    アタックの基本イメージとしては階層構造を活かしていこうとする様子が見られていますが、多くのフェイズでワンパスで相手とのコンタクトが生まれるシーンが目立っており、ボールを動かし切れなかったようにも感じました。

    アタックのフローとしては、エッジを指向したアタックがうまくいっていたように見えました。
    階層構造を用いて崩しを生み出したシーンは見ている限りでは一度きりでしたが、中央エリアでの連続アタックからエッジを狙ったアタックでは、数的優位を生かして大きな前進を見せていました。
    流れの中でアタックに幅を持たせ、幅を活かしていたように思います。

    ただ、アタック自体のテンポは早稲田と比べるとゆったりとした形で、流動的に優位性を作ることもできておらず、ゲイン獲得自体はかなり苦戦していたように見えました。

    また、パス回数を重ねることができたアタックではある程度攻略の糸口のようなものは見えていたと思うので、もしかすると接点の作り方の部分に工夫の余地はあるかもしれません。
    個人の領域でも、15番のタヴァケ・オト選手のようなスキルフルな選手もいて、活かしどころの工夫で攻撃力の向上も図れると思います。

    ・苦戦した接点

    接点としては、かなり苦戦した方ではないかと思います。
    チームのスタイルとしてはある程度接点で前に出て、相手との間に空間を作ることでアタックに工夫を加えるような形ですが、肝心の接点の部分で相手に空間を奪われ、余裕を失っていました。

    アタックの中心であるポッドを使ったアタックですが、理想的な形としてはポッドの選手が走り込みながらプレー選択をする、もしくは止まるくらいの勢いでボールを受けてそこからプレー選択をする、といった形が考えられます。

    しかし、今回の試合では、素早い出足の早稲田のディフェンスにプレッシャーを受けることによって、その選択肢を選び取るという時間を奪われていました。
    シンプルなコンタクトに終始し、優位性のあるコンタクト姿勢を作れたシーンもそう多くはなかったように見えました。

    ポッド内でのパスワークといった工夫もあり、接点での圧力をずらそうとする意図は見えました。
    ただ、パスをする選手と受ける選手が同じ角度で走っていることで相手としては押さえやすくなり、パスをする選手の相手とのコミットも甘いために読まれやすかったという側面はあるかと思います。

    また、ブレイクダウンにもかなりプレッシャーを受けていたように思います。
    ジャッカルを受けるだけではなく、サポートに入った選手にコミットされることによってラックの周りの空間を押し込まれ、ボール出しにも苦労していたように見えます。

    まとめ

    大学ラグビーの春シーズン、最初の分析は早稲田大学と大東文化大学の試合からでした。

    早稲田は主力の代替わりや、U23への派遣などでまだまだ固まっていないスコッドだったように思います。
    とはいえ、高い攻撃力でゲームを支配していました。
    ここに主力が戻ってくるのが楽しみです。

    大東文化は昨シーズンのリーグ王者ですが、大学選手権では京都産業大学に敗れるなど難しいシーズンでもあったと思います。
    主力の卒業などもあり、ここからの組み立てが大事になってくることでしょう。

    今回は以上になります。
    それではまた。

    (文:今本貴士)